剛翼と蒼炎−2
5月、何度目かの公安からの直接の要請を受けた応利は、燈矢とともに東京にやってきた。
今回は泊りがけで4日間の滞在となる予定だ。といっても、何か大きな事件にあたるというわけではない。
表向きには、オールマイトが近隣国の大規模事件の捜査にあたって不在としていることや、ここのところ治安が悪化していることなどから、東京での臨時チームアップによる治安維持強化にあたる、というものだ。
そのチームアップ相手はなんとホークス。
燈矢はずっと渋っており、「なんで応利がンなことさせられんだよ」とずっと愚痴をこぼしていた。
確かに、表向きの理由だけなら燈矢の言うことも一理ある。別に応利である必要はない。
公安からは裏の理由があり、そちらがメインだと聞いているが、それは初日に公安本部で話すということになっていた。だが、それもやはり何かの事件の調査や解決、といったことではないらしい。余計になんだか怖いような思いだ。
そうして指定された都内の高級ホテルにやってくると、ロビーのラウンジにある個室ブースにスタッフが案内してくれた。
促されるまま個室に入ると、中にはすでに大きな赤い羽根が見えていた。
「悪い、待たせたか」
「いーえ!俺もついさっき来たとこなんで」
スタッフは一礼して部屋を去る。3人だけになったところで、ホークスに向かい合うように対になったソファーに腰を下ろした。燈矢も隣に座る。
改めて近くでホークスを見ると、若いわりに顔立ちや纏う空気にはかなり成熟した様子が窺えた。てっきり生意気な若造か何かだと思っていたが、これは只者ではない。
相手の熟練度は燈矢も見定められる。ホークスのそれに、不快感から警戒感へと変わっていた。ただ、それは表に出さないで欲しいところだ。ホークスも気づいてほんの僅かに困惑していた。
「じゃ、改めて。俺はパスカル、出身はこっちだけど今は静岡でプロやってる。そんでこっちはSKのトーヤ」
「ホークスです、よろしくお願いします」
「短い間だけどよろしく頼む。何か飲むか?」
ローテーブルに置かれたタブレットを開いてコーヒーをカートに入れると、ホークスも「じゃ、ありがたく」と言いつつコーラを頼んだ。そういうところは若い。
燈矢は紅茶を頼んでいた。こちらもこういうところは富裕層らしい。
すると、ホークスから話題を振ってくる。
「確かパスカルさんて、エンデヴァー事務所のSKだったんですよね」
「そうそう。職場体験とかインターンのときからお世話になってた」
「そんで、トーヤさんはエンデヴァーさんの息子さん」
「……あ?だからなんだよ」
炎上したこともあったからか、それとも別の理由からか、ホークスはよく知っていた。これくらいならファンも知っているため特に驚きはないが、燈矢は父に言及され目つきを悪くしていた。
「いやぁ、いいなァって思って!俺、実はエンデヴァーが一番好きなんスよ!」
「は?」
突然、燈矢のド地雷を踏みぬいたホークスに空気が固まる。ただでさえ不機嫌だった燈矢の機嫌が最下層まで落ちた。応利は頭を抱える。
「お前頭イかれてんのか。それとも初登場で10位以内入ったからって上から目線の世辞か?」
「えー、まさかそんなチクチク言われるとは…」
普通の人なら竦みあがるような眼光を受けても、ホークスはさすがというべきか、まったく気にした様子ではない。思った反応ではなかったことへの困惑は引き続きあるものの、それだけだ。
だが、いくら若手相手とはいえ礼を失するわけにはいかない。
応利は燈矢を制してから謝る。
「悪いホークス、実は俺、エンデヴァーさんの家に居候してたんだけど、まぁその、家族関係はあまり良好ではないんだ。ヒーローとしては文句なしに一流なんだけど、良い父親ではなかったっていうか…」
「…すんません、センシティブな話しちゃいましたね」
特に気に病むでもなく、ホークスはあっさり応じた。家族関係が良くなかったという事実にも、特にどうとも思っていなさげだ。これはこれで燈矢も思っていた反応と違ったのか、「なんだこいつ」という表情になっていた。
それにしてもこの飄々とした様子、やはり違和感がある。年齢に対してあまりに大人びている。速すぎる男などと呼ばれているが、ただそれだけではないのは確かだった。