剛翼と蒼炎−4


「俺の個性も、座標の特定、規模の決定、相手の動きによる座標変動の予測、目的の気圧、そういったたくさんの変数をもとに計算して発動する。お前の個性も、目に見えてる以上に相当な思考を必要としてるのに、それを感じさせない発動速度になってる。一朝一夕どころか高校3年間かけても無理だ」


個性訓練が始まるのはヒーロー科の高校生から。その3年間をもってしてもこのレベルには到底至らない。

そう、ホークスはそもそも、学校に行っていないのだ。だから記録がなく、いきなりデビューして社会に現れた。
きっとヒーローとして育成したのは公安だ。公安が直接そうするということは、恐らく、噂には聞いたことがある公安の暗部だろう。
どうにもヒーロー公安委員会は、違法な活動に手を染めるヒーローなど、裏での非合法な犯罪者の「処理」を行っているらしいのだ。応利の見立てでは、ホークスはそうした仕事を前提に、公安で何らかの理由で育成された。


「…さっきの委員長の言葉通り、俺はお前のこといろいろ察してるけど、何も言わない。関係ねぇしな。でも1つだけ」


応利は、燈矢より近い位置にあるのをいいことに、ホークスの頭にそっと手を置いた。撫でるようなそれに、ホークスは目を見張った。


「っ、」

「よくここまで頑張ったな。すごいことだよ、本当に。えらいな、お前は」


血反吐を吐くような努力を何年にもわたって行わなければ、このレベルでこれほどの個性を使いこなすことはできない。見たことないはずのその姿が、燈矢の姿に重なった。
燈矢とは1つしか年齢が違わないとのことだが、二人ともずっと、想像を絶するような努力をして生きてきた。


「…あ、わり。つい」


そう感じてつい頭を撫でてしまったが、さすがに今日出会ったばかりでこれはまずい。応利は慌てて手をひっこめたが、ホークスは意外にも満更でもなさそうにしていた。


「んー、まぁ、応利さんならいいかな」

「そ、そっか…てかなんで名前」


すると、しれっとホークスは応利を名前で呼んでいた。聞きなれない低い声で呼ばれ驚くと、ホークスは楽しそうにする。


「体育祭見てたんで。名前はもともと知ってたんスよね。ダメですか?」

「ダメとかじゃねぇけど…」


やはりいまいち掴みどころがない男だ。さすがにヒーロー活動中はヒーロー名で呼ぶだろうが、燈矢が聞いたらキレそうだ。


「3年生のときのインタビュー聞いて、かっこよか人やねって思ってたんで、チームアップは普通に嬉しかったんスよ」

「よく覚えてるな」


3年連続優勝したとき、圧倒的すぎた応利に対する世間やメディアの心無い声に対して、「ヒーローとしてそれで人を救えるならいい」と断言したときのことだ。少し気恥ずかしいが、そう言ってもらえるのは純粋に嬉しい。


「まだ会ったばっかですけど、そういう応利さんの軸みたいなもの、ちょっと分かった気がします」


ホークスにそういうことを言われるとは思わず、応利は内心で少し驚く。これまで燈矢が伝えて来てくれたことを、端的にまとめたような言葉だ。人を見抜く力、というのもしっかり備わっているらしい。本当に1人でなんでもできるタイプの男だろう。
こんなにも肯定的に言ってもらえるとは思っていなかったため、だんだんむず痒いような気がしてくる。


「…そっか。俺も一つ分かったことがある」


そろそろ一般職員の行き来が多くなる廊下に近いため、話題を切り替えるためにも、応利は少し上にあるホークスの切れ長の瞳を見上げてニヤリとする。


「博多弁ってやっぱ可愛いよな」

「…っ!うわ、小悪魔って言われません?」

「さぁな」


僅かに顔を赤くしたホークスにしてやったという気になる。

これ以上、ホークスの事情に踏み込むつもりはない。そうしなくても一緒に戦うことはできる。この距離で十分だった。


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