剛翼と蒼炎−6


翌日、3人は朝からパトロールに出た。今日は新宿が対象エリアとなる。
特に、東側の歌舞伎町周辺の繁華街を歩くことになっていた。

ここでも多くの人々の歓声を受けつつ歩き、たまに違法なキャッチを捕まえたり、トラブルになっている男女を仲裁したりと軽微な対応を行っていた。

SNSはかなり盛り上がっているようで、昨日から応利たちが短期チームアップを組んで都内で活動していることを受け、一目見ようとファンたちが目撃情報を辿ってきているようだった。そのため、平日にしては歌舞伎町の人が多い。

するとそこに、無線で緊急の連絡が入った。公安がある一定範囲のヒーローに緊急通報を行うものだ。


『新宿御苑で発生したトラブルから、大型化する個性の人物が暴走、靖国通りを新宿駅方面へ向かっています。速やかに食い止めてください』

「こちらパスカル、歌舞伎町にいるため対応します。敵の大きさは…いえ、視認できました」


すぐに靖国通りに出てきた3人だったが、すでに東の方から悲鳴が聞こえ始めている。7〜8車線にもなる大通りだが、自動車を吹き飛ばしながら巨大なトラが走ってきていた。トラになれる個性なのだろうが、いかんせんそのサイズは5メートルほどになっている。いくらなんでも異常だ。
個性をブーストする違法薬物によるものだろう。ただ、速度が遅いため人々が車を乗り捨てて逃げ出すには十分な時間がある。すでに人々は次々と通りから町中に逃げ込んでいた。


「じゃ、俺が先に飛んで止めてきます。多分、頑張れば俺一人でも止められるんで、そのあとのこと頼みます」

「は?おい、」


応利は呼び止めるが、ホークスはすでに翼をはためかせて猛スピードで飛び出していた。羽根を動員すればなんとか止められはするだろうし、実際、可及的速やかに停止させる必要はある。


「トーヤ、フォロー入れ」

「チッ、あいつの尻拭いかよ」

「協力だ協力!」


燈矢も文句を言いつつ、足から炎を出してホークスの後に続いて敵へと向かう。空中での速度はほぼイーブンだ。航続距離ではホークスに分があるだろうが、短距離では燈矢の方が速いだろう。

応利は彼らの後ろを走り出しつつ、恐る恐る様子を窺う人々に靖国通りを離れるよう指示する。車内に人が残っていないかもさっと確認しながら走っていると、すぐに前方で敵が停止する轟音が響いた。
ホークスの羽根が総出で体当たりをするように止め、ホークス本体は一部の羽根を刀のように扱い、抵抗する敵に切りかかる。

さらに、燈矢はジェットで空中に飛びあがるなり、手と片足から交互に炎を噴射して空中で体勢を器用に変え、体を回転させて勢いをつけながら、正確に男の眉間めがけて長い脚を振り下ろした。直撃した敵はかなり痛そうに呻いている。


局所低気圧(スーパーメソロー)350hPa」


応利はまだ離れた位置にいるものの、個性の範囲内に入ったため、敵を気絶させる。これにより、個性は解除され、急速に男の体は萎んでいった。
やがて車の影に見えなくなってしまったため、再び走り出す。

そうして現場に到着したときには、燈矢がトラ頭の男を捕らえ、燈矢は吹き飛ばされた車を羽根で道路に戻す作業に取り掛かっていた。

応利に気づいたホークスはぱっと表情を明るくする。


「見てました?パスカルさん」

「見てた。よくあの巨体止められたな。正確に関節を羽根で押さえて動けなくしてただろ。人間体と構造が違うのによくやった」

「あの距離でそこまで見えてたんスか…?」


ホークスは褒められて嬉しい一方で正確すぎる評価に少し引いていた。それでも、車を操る羽根に乱れはない。

また、応利は燈矢にも声をかける。


「さっきの動き初めて見た、さすがの身のこなしだな。そういう動きできるってアップデートしとくけど、帰ったら連携確認しよう」

「ん」


燈矢も先ほどの動きは自信があったようで得意げにしていた。こういうところは二人とも似ているというか、可愛げがある。

ただ、応利は少し気になったことがあったため、ホークスの肩をぽんと叩く。


「ホークス、お前ちょっと自分の体のこと二の次にしてる節あるだろ」

「あー…そこまで分かるもんですかね」

「あいつもそうだったし」


こうしてみると、ホークスと燈矢はよく似ている。これを言うと嫌がるだろうが。


「1人でなんでもできるようになるなら自分のことを守りな。助けてもらう必要がないってのは、自分で自分を守れるってことだ」


ホークスは恐らく、こうしてチームアップこそしているが、基本的には1人ですべて解決するような活動をするだろう。実際、彼のスタイルにはよく合っている。SKを雇っても事後処理などに徹することになるはずだ。
それなら、そうした考え方は改める必要がある。それに、よりシンプルな理由もある。こうして縁ができてしまったのだ、ホークスのことを、何も知らない相手だとはもう思えない。


「あと、普通に俺も心配するしな」

「え…」


最後に軽くそう述べてから、駆け付けた警察のところへ向かう。引き渡しや報告などを行うためだ。

そのため、まさか後ろで、応利を見つめるホークスの視線の色が変わったことに燈矢が気づいて、ホークスを恐ろしい形相で睨みつけていたとは、思いもよらなかった。


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