剛翼と蒼炎−7


東京に来て3日目、チームアップの最終日を翌日に控えた夜に、燈矢は同じホテルにいるホークスの部屋を訪ねた。

本当は同じ部屋に泊まる応利とイチャイチャしたいところだったが、滅多にない機会ということで、東京のヒーローや高校時代の友人と夕食をとったり、実家に一瞬顔を出したりと、仕事が終わってもかなり忙しそうにしている。
結局、ほとんどホテルでイチャつくことはできなかった。

ただでさえそれにイラついているというのに、ホークスだ。
もともと応利を差し置いて10位以内にノミネートされたことにムカついていたところ、応利を見る目がこの3日間で急激に変わったことを見抜いていた。

ここは確認したうえで分からせてやらねばならない。
そう考え、燈矢はこうして来たくもないホークスのもとへ来ている。

呼び鈴を鳴らせば、すぐにホークスが出てくる。リラックスしていたのか、ラフにシャツとジャージ姿だった。燈矢もほぼ同じで、トレーナーとジャージという格好だが。


「…あれ、トーヤさん?どうしました?」

「話がある」

「あー…じゃあ、入ります?」


燈矢は無言で室内に入る。ラウンジなどでもいいが、さすがに人の目がありすぎる。

中に入ると、意外にも片付いている、というか荷物がほとんどない。最低限の着替えくらいだろうか。どうやら極端に荷物の少ないミニマリストに近いようだ。

ベッドに腰かけたホークスに対して、燈矢は立ったまま。腰を落ち着かせるつもりはなかったし、ホークスもそれを気にした様子はなかった。


「話ってなんです?夜這いなら応利さんにしてほしかったなァー」

「殺すぞ」

「こっわ」


ホークスの軽口に端的に答えた燈矢は、ため息をつきつつさっさと本題を切り出す。ちょうど、本題のフックになるような軽口でもあった。


「クソ、あいつまた年下の男誑かしやがって…お前、応利のことどう思ってンだ」

「どう…ってのは、恋愛感情があるかってことっスよね?」


この文脈なら当たり前だろう、と睨むと、ホークスは肩をすくめてから少し考える。そして、純粋な疑問として尋ねてくる。


「そういうトーヤさんは?わざわざこうして聞いてくるんだから、好きか付き合ってるかでしょ?ま、付き合ってそうですけど」

「付き合ってる。残念だがお前の出る幕はねェ」


中指を立てて言ってやれば、ホークスは悔しがるでもなく納得する。


「道理で。SNSで出てる情報もですけど、空気感とかもそんな気がしたんですよね。俺は恋愛じゃなくて尊敬ですよ、尊敬」

「ふーん?尊敬ねェ」

「てか、トーヤさんだいぶ愛されてんな〜って感じでしたよ」


するとホークスは意外なことを言った。ホークスの目から、燈矢が応利に愛されていると見て分かるものだったという。さすがに公然と付き合っているような振る舞いはしていない二人だ、どういうことかと無言で続きを促す。


「叱るときは俺とトーヤさんの両方。褒めるときに俺たちを比べないし、注意するときも褒めるときも実務的なものに徹する。相談や意見は必ずトーヤさんから。ありゃ意識的にやってる。好き、とかはないスけど、もう数年出会うのが早ければ落ちてましたね」


トーヤは内心驚く。只者ではないと分かっていたが、まさかここまで観察しているとは。公安がわざわざ応利と組ませた理由が分からなかったが、この男は公安の直接の依頼、例えばスパイなどに極めて高い適正がありそうであることから、ホークスをより成長させるため、というのがしっくりくる。どう考えても、パトロールするだけなら応利が東京まで来る必要はない。

そして、ホークスの言葉は真実だ。どんな人生だったかは知らないが、今まで各有名校でホークスなど話に出たこともなかったため、どうせろくでもない人生だったのだろう。それこそ燈矢のような。
それなら、より多感な時期に出会っていたら落ちていたというのはよく分かる。実体験だ。


「…俺が応利と出会ったのは小学生ンとき。沼に落ちたのは中1」

「うーわ、そんな時期にあんな人と出会ったら底なし沼でしょ」

「いやマジでそう。つか俺ら兄弟の初恋の相手全員あいつ」


どこにも出口のない絶望の暗闇で、手を差し伸べてくれた唯一の光だった。あの炎の中で抱き締めてくれたときのことを思い出すと、自然と口を開く。


「…エンデヴァーは、オールマイトを超えるために個性婚して俺たちをつくった。俺の火力はエンデヴァーを超えてたが、体質は母さん…氷結の血筋を継いでいた。個性が体に合わねェつって、エンデヴァーは俺にヒーローになるなと言った。もう、遅かったのにな」

「そう、だったんスね」

「誰も失敗作の俺を見ない。そんなときに、応利だけがヒーローになれるって言ってくれた。俺に寄り添って、一緒に訓練に付き合って、個性が暴走して大火事になったときには炎の中に飛び込んで俺を助けた」


不思議な感覚だった。なぜ、あれほど腹が立っていたホークス相手にこんなことを話しているのか。あのときのことを他人に燈矢の口から話したのは、これが初めてだった。
ホークスはエンデヴァーが好きだと言っていたが、そのわりに燈矢が明かした事実にはショックを受けた様子はなかった。きっと何か個人的な出来事に起因するのだろう。


「…なんとなく、トーヤさんにシンパシーみたいなの感じてたんスけど、俺たちちょっと似てるんですね。つっても、俺は出自は明かせないし、名前も出さないから、なんでかってのは言えないんスけどね。公安育ちってヤツです。秘密ですよ?応利さんは察してましたけど」


ホークスの言葉に、燈矢はいろいろ合点がいった。名前を捨てたということ、公安育ち、それならば先ほどの見立ては間違っていない。それどころかもっと深く、公安の暗部を担うような立場なのだろう。
具体的なことは分からないものの、きっとホークスにとっては、燈矢の過去に自身の過去と通ずるものがあると思ったようだ。応利も、もしかすると直観的にホークスと燈矢が似ているとでも思っているのだろう、なんとなく応利のホークスへの態度が他より優しいのが気になっていた。

そして、珍しくこんなに誰かと会話していることも、燈矢自身がどことなくホークスに自分と似ているところがあると感じているからだろう。

仲良くするつもりはないが、先ほどまでの苛立ちが鳴りを潜めた、そのとき。


「俺たちは似てる。つまり、好みも似てるってわけ」

「てめェやっぱ焼き鳥にしてやる」


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