人生のともしび−2
2月、いよいよ燈矢との生活が始まった。
朝、スマホのアラームで目を覚ますと、同じタイミングで燈矢も目覚める。寒い朝のため、ベッドの中で燈矢にくっつくように寝ていた。
すぐ間近に端正な顔があり、眠そうにしながら時間を確認している。
「おはよ、燈矢」
「…はよ、寒くねェの?」
「寒い…」
「ん、」
そう確認すると、燈矢は先に起き上がり、すぐに寝巻きの上から羽織るカーディガンをベッドサイドのポールから掴み、同じく上体を起こした応利の肩にかける。
そのまま応利を抱き上げてベッドを降り、洗面台まで向かう。
燈矢の高い体温のおかげで温かく、冬の寒い空気によって目も覚める。
そうして二人揃って朝の支度を行うが、ある程度のところで応利は先に洗面台を離れキッチンへ向かう。朝食の支度をするためだ。
今日の轟家は冬美が担当のため、応利は自分たちの分だけを用意する。
和食派の燈矢だったが、一人暮らしを始めて何度も同じ朝を迎えるようになってからは、洋食でも気にしなくなっていた。そのため、トーストと目玉焼き、ソーセージ、サラダ、ヨーグルトというラインナップだ。
卵は応利の気分によって、卵焼きやポーチドエッグ、ゆで卵のときもある。
「燈矢ぁー、紅茶とコーヒーどっち?」
「紅茶」
「んー」
キッチンから声を張って洗面台に尋ねると、燈矢の声が聞こえてくる。顔を洗っているのかくぐもっているが、燈矢の声は聞き取りやすいため問題ない。
朝食を作り終えてから、燈矢が食べている間に応利は朝の支度の続きを行う。
そして支度を終えてダイニングテーブルにつき、自分の朝食を食べるころには、燈矢が食べ終えて自分の食器と調理に使った器具を洗い、出かける準備を整える。
そして応利が食べ終えると、燈矢が応利の分の食器も洗っている間に、応利は出かける準備を終わらせる。
そうやってお互いに協力しながら準備をしてから出勤となり、燈矢の運転で事務所に向かう。自分で運転した方が酔わないのだという。
車が発進してすぐ、おもむろに燈矢はしみじみとつぶやいた。
「なんつか、同じ家から出て同じに家に帰んのっていいな」
「今更かよ…てか泊まりに来たときと変わらないだろ」
「情緒ねェのか」
「お前に言われたくねぇわ」
どうやら一緒に暮らしているという実感が今湧いてきたらしい。泊まりに来た翌日もこんな感じだったため、特に変わりはない。今日から初めてとなることは、行為そのものにはなかった。
だからそう指摘したところ、まさかの燈矢に情緒を指摘された。普段そう言われている側の意趣返しだろうか。
そんな会話をしつつ出勤、いつも通りの勤務を終えて夕方に事務所を後にすると、再び燈矢の運転で帰宅する。
真冬の夕方は、空の明るさで言えばほぼ夜だ。街灯と対向車のライトに照らされながら車が進み、帰宅ラッシュで混みあう大通りでは渋滞に捕まってしばらく徐行運転となる。
そんな合間に、ニュースの確認などを済ませ、夜のメニューを考え、明日の朝食は轟家に行って作ることになっていることから夏雄の弁当のことも考える。
轟家で食事を作るときは燈矢も一緒に食べるため、ご飯の量がとんでもないことになる。中学2年になろうかという焦凍がメキメキと成長しており、高校2年になる夏雄と並んで引くほど食べるのだ。
炎司は年齢もあって食べる量がいくらか減ったがそれでも多く、燈矢も同様であるため、相撲部屋かというくらいご飯を炊いておかなければならないのである。
そんなことを考えていればあっという間に家に到着する。
車を出て専用エレベーターに乗り、10階へ。すぐ近くの玄関を開けて、二人揃って中に入る。
人の動きを感知して自動点灯する廊下の照明に照らされると、なんだか急に、燈矢とずっと一緒だったなと実感してしまった。
朝起きて一緒に家を出て、一緒に仕事をして一緒に帰ってきた。
一緒に暮らしている。その実感を応利も得たのが、たった今ということだ。
つい、応利はそのまま燈矢に抱き着いた。靴を脱ごうとしていた燈矢は驚きつつ難なく受け止める。
「お、どうした」
「…なんか、ずっと一緒だなって、実感した」
「今かよ」
燈矢はおかしそうに小さく笑いつつ、応利を深く抱きしめなおした。
燈矢の首筋に顔を埋めれば、後頭部を撫でられる。
二人で出かけたときにこれを感じた燈矢、二人で帰ってきたときに感じた応利。二人ともタイミングは反対だったが、感じたものは同じだ。
しかし燈矢はするりと尻を撫でてくる。それには応利はその手をはたき、スン、と顔を上げる。
「今日は買い物行くから駄目だぞ。明日は轟家で飯作るし、そのための買い出しを予定してたから。ほら、荷物置いたら行くからな」
あっさりと述べた応利に、燈矢はため息をつく。そのわりに、邪魔されたとは思わなかったようだ。
そして二人目が合う。こんなしょうもないことがおかしくて、二人揃って小さく噴き出した。