人生のともしび−3


燈矢と一緒に暮らすようになって少し、バレンタインになった。
今年も応利から送る予定でいるが、平日のため、次の週末に作るつもりだ。

ということで、当日の今日は何事もない平日となるはずだったのだが、思わぬ来客があった。
受付のインターフォンが鳴らされ、燈矢が倉庫整理をしていたこともあり応利が出る。


「はい、パスカル事務所です」

『おっ、応利さんこんにちは、ホークスです』

「え、ホークス?」


福岡拠点のヒーローであるはずのホークスがこんなところに来ているのが意外で、応利はすぐに玄関に出る。赤い羽を折りたたみながら、にこやかに挨拶をしてきた。


「お久しぶりですね」

「いきなりどうした?」

「たまたま近くで用事があったんで、応利さんの事務所近いなって思って来ちゃいました」


綺麗にウインクをして言うため、応利は呆れつつ中に招き入れる。わざわざついでに寄ってくれたのだ、特に急ぎの用事もないため、挨拶程度にはもてなすことにした。

応接室に通すと、話声が聞こえたからか燈矢も出てくる。そして応接室に入るホークスを見て盛大に顔をしかめた。


「おいクソ鳥なんで来てンだ」

「お、トーヤさんもお久しぶりですねぇ。近くの街で用があったんで」


簡単にコーヒーを出してやりつつ、ホークスの向かいのソファーに腰を下ろす。燈矢は長話をさせたくないのか、立ったまま圧をかけていた。


「応利さん、今年入ってから東京とか横浜での仕事続いてません?いくら近いといっても大変でしょ」

「よく知ってるな、全部が大きなニュースになってるわけじゃねぇのに」

「応利さんのニュースは通知設定してるんで」


ヒーローのニュースを専門的に扱うサイトでは、ヒーローごとに通知設定が可能だ。それを利用しているのだろうが、そこまでしているのは少し気持ち悪い。燈矢の纏う空気の温度が急降下し続けているが、ホークスはどこ吹く風だ。


「そ、そうか…まぁ、実際頻繁に移動するのは面倒ではあるな。公安からも、さんざん東京に移転しろって言われてる。この辺りはエンデヴァーさんがいるしな」


ホークスの指摘通り、首都圏での緊急の依頼が多いため、今年に入って1か月半であるにも関わらずすでに20回も首都圏での事件解決にあたった。数日おきに新幹線に乗っている。
ここのところ、公安からも東京移転を強く求められている。もともと静岡はエンデヴァーの牙城であり、有名ヒーローが集まる雄英高校もあるため、応利がいる必要はないのだ。


「ま、家のこととかありますしね。そうだ、今日は渡したいものあるんですよね」


それこそ公安のこととなればホークスもよく理解している。それ以上掘り下げることはなかったが、今度はそう言って、ウェストバッグから何やら取り出した。


「はい、バレンタインのチョコです」

「え…ホークスが俺に…?」

「似合わないって思ったスよね?俺もそう思います」


自分でそんなことを言いながら渡してきたチョコレートは、何の変哲もないブランドものだ。甘いもの好きとしては普通に嬉しい。
一方、燈矢は人でも殺そうとしているのかというほどの眼光で睨みつけていた。


「おいてめェどういうつもりだ」

「そんな大したことじゃないですよ。せっかく近く来るなら渡したいな〜って思っただけで」

「やっぱてめェ焼き鳥にしてやる」


手の平から青い炎を漏れ出させる燈矢を制しながら、とりあえず受け取るが、応利は念のため申し添える。


「一応俺、こいつと付き合ってるからな」

「知ってますよ、トーヤさんに教えてもらったんで」


何も言わずに受け取るわけにはいかないと付き合っていることを明かしたが、ホークスはけろりとしていた。しかも、察していたということでもなく、燈矢が事前に明かしていたらしい。そこまで話していたとは驚きだ。


「応利さん、年下キラーですよねぇ」

「なんだそれ…別にそういうんじゃないだろ」


分かっていて渡すのはどうなんだという呆れと、ホークスの謎の感想に困惑していると、燈矢はドヤ顔になる。


「俺含め、兄弟全員の初恋奪っておいてよく言うぜ。ま、初恋がかなったの俺だけだが」

「は?マジ?」


そして燈矢の衝撃発言に驚いて見上げる。燈矢は分かるが冬美と夏雄もなのか、あるいは焦凍まで含むのか。焦凍のことまでは分からないが、燈矢は驚く応利を見て呆れる。


「あの状況であんな優しくされて落ちないわけねェだろ」

「これは責任重大っスね、応利さん。俺にも責任取ってほしいんで、今度一緒に食事でもどうです?」


さらに茶化すようにホークスまでそう言ってきた。別に応利に落ちた、というわけではないはずだが、ホークスが応利に向ける感情は、少なくとも特別視の上にあることは確かだ。
ただ、公安の暗部を司るのであろうホークスがそんなことに現を抜かすわけがないため、きっとこれも冗談の延長だろう。
そうであっても答えは同じだが。


「別にいいけど、燈矢も一緒だからな」

「はは、そういうとこ、ほんと真面目ですねぇ」


なんであれ燈矢が一番で、燈矢が優先だ。そこは揺るがない応利に、不機嫌だった燈矢の機嫌も持ち直す。


「トーヤさん、こんな優良物件、かっさらわれないようにね」

「そうだな、手始めにお前は出禁だ」


そうやってまた言い合い始めた二人にため息をついて、応利は早速ホークスからもらったチョコを一つ食べる。なかなかのセンスの良さだ。
騒いでいる二人をBGMにするのはやかましいが、こんな時間も悪くなかった。


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