人生のともしび−4


ヒーローとして活躍しつつ、燈矢と同じ家で暮らす生活にも慣れてきた夏。
学校が夏休みに入り、冬美が食事メインに多くの家事を担ってくれている中、大量の洗濯物や広い家の掃除を手伝うために応利と燈矢は轟家に来ていた。

真夏の厳しい日差しの下、合宿に行っていた夏雄のジャージなどを庭に干していると、珍しく焦凍がやってくる。


「応利君、今いいか」

「ん?どした?」


中学2年になって、身長も体格も良くなってきた焦凍は、声変わりですっかり声も低くなっている。それでも、応利のことは兄たちに合わせて君付けのままだった。
それに内心でほっこりしつつ続きを促すと、焦凍は周囲を見渡す。


「燈矢兄は?」

「今は掃除中。燈矢に用か?」

「いや、二人に頼みてぇことがあるんだけど」


これはまたさらに珍しい。本人もその自覚があるのか、頬をぽりぽりと掻いていた。


「頼みたいことって?」

「右の個性の出力訓練。氷結を出せる量を多くしてぇんだけど、場所がなくて」

「あー、俺と燈矢の個性で氷を相殺していくことで、最大出力を上げたい、ってことだな」

「あぁ」


冷の個性を継いでいないからこそ悲惨な事態となった燈矢にそれを頼むのは、なかなかにセンシティブではある。だが幸いにも、今まで燈矢がそれなりに焦凍に兄貴として接してくれていたため、今回こうして頼むことができたのだろう。
焦凍にとっても簡単な頼みではなく、だからこそ応利にも同時に頼んでいる。自分の存在が兄を追い詰めた自覚は、こうして年齢を重ねたことで、ある程度焦凍の中にもあるようだ。


「そっか。燈矢に直接先に頼まなかったのは正解だ、今日暑すぎて機嫌悪いから」


ただ、今日はあまりの高温に、燈矢はずっと不機嫌だった。炎天下に屋外へ出る洗濯を応利がやってやっているものの、広い家の掃除のために体を動かすだけでも暑い。

ちょうどそこに、燈矢が縁側に出てきた。汗を拭って掃除機を睨みつけている。舌打ちがここまで聞こえてきそうだ。
応利は臆せず庭から燈矢に声をかける。


「燈矢、ちょっといいか」

「…あ?」


焦凍もいるのを見て、さらに燈矢の顔が不機嫌そうになる。焦凍は怖がることこそないが、気まずそうにしていた。
とりあえず庭に出てきた燈矢は、きつい日差しに鋭い眼光になる。


「なんだよ」

「焦凍が氷結の出力訓練を俺たちに付き合ってほしいって」

「断る」


案の定、燈矢はすげなく断った。食い下がるということを知らない焦凍は、しょぼんと項垂れる。


「そう、だよな。悪ィ燈矢兄」


これくらいで心が揺らぐような殊勝な玉ではない燈矢は気にしていないが、応利は言葉を続ける。


「焦凍が氷を出し続けて、俺が応力で破砕、燈矢は蒼炎で融解させる。すぐ溶けるとはいえ量が量だ、かなり涼しいぞ」

「…、」


この暑い中、焦凍が発生させる大量の氷を破壊して浴びる氷の粒や冷気は、かなり体感温度を下げるだろう。燈矢は少し考えてから、焦凍をじろりと見降ろした。


「…半端な量じゃお前ごと燃やすからな」

「だって焦凍、OK出たぞ。早速やるか」

「本当か!」


ぱっと表情を明るくして、焦凍は数歩離れる。燈矢の心が変わらないうちに始めることにしたが、焦凍も焦凍で切り替えが早い。こういうところは末っ子だ。

一気に破砕しないと庭に損害が出るため、応利と燈矢はすぐに構える。
そしてその直後、燈矢の右腕と右足から大量の氷が一気に出現した。すぐに日差しを遮り二人に影が落ちる。

思ったよりもずっと強い個性に、応利はさすがだな、と思いつつ個性を発動する。
直後、不自然な応力によって氷は自重に耐え切れず圧壊、粉々に砕け始めた。

燈矢も青い炎によって氷が迫るたびに昇華させている。気化熱によって周囲の温度は下がり、応利が粉砕した氷の粒は雪のように二人に降り注ぐ。
もはや霧雨に近いため少し濡れてしまうが、暑い日差しの下では涼やかだ。燈矢が炎を出していても、その輻射熱より発生する冷気の方が遥かに強い。それだけの出力ができる焦凍もすごかった。


「おい焦凍、こんなへぼい氷じゃ、エンデヴァーの小指にも勝てねェぞ」

「じゃあ燈矢兄は勝てんのかよ」

「俺の方が温度が高いンでな」


アドバイスをするでもなく単に煽る燈矢と、簡単に煽られる焦凍。
決して仲の良い兄弟というものではないが、それでも、燈矢は兄で焦凍は弟だ。互いにきちんとそう認識していた。

二人の過去を考えれば、こんな関係にならない可能性の方がずっと高かったのに、こうして普通の兄弟でいられている。
それは、焦凍にとって燈矢がこれまで兄として振る舞ってくれた存在だったこと、そして燈矢にとって、自分と同じく父親を否定するために努力しているという共通点があることが大きいだろう。

この時間は奇跡のようなものだ。だからこそ、焦凍が高校で良い出会いをして変わってくれれば、きっとさらに、明るい未来に彼らが向かっていけるのではないかと思う。


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