人生のともしび−7
東京への引っ越しの準備を進める一方で、夏雄と焦凍の受験も終わり、無事にそれぞれ進路が決まった。
夏雄は少し離れた場所にある大学に、焦凍は雄英高校に入学することになり、これを機に夏雄は一人暮らしを始めることにした。
大学近くのアパートのため、応利たちの家の方が近い。
引っ越しに際して、応利たちが手放す予定の家具のうちいくつかは夏雄が引き取ることになっており、今日はその運搬を行う日だった。
「夏君そっち持って」
「ん、じゃあいくよ、せーのっ」
夏雄と燈矢はひょいっと重そうなテレビ台を持ち上げる。二人が持っていると随分軽そうに見えるが、かなりの重量があったはずだ。ヒーローである燈矢はともかく、夏雄も鍛えている成果が出ている。単純な力勝負では夏雄には勝てなさそうだ。
応利もこまごまとしたケーブルやら調理器具やらを段ボールに詰め、駐車場に向かう。少しずつ車に運び込んで、このまま夏雄のアパートにダイレクトに持って行く。
一通り乗せられたところで、運転席に燈矢、助手席に夏雄が座る。後部座席はフラットにして荷物を置いていた。
応利はというと、轟家の車を轟家から夏雄の荷物を載せた状態でここに持ってきていたため、一部をこちらにも積んだうえで、分乗して夏雄のアパートに向かう。兄弟が乗っている車を追いかける形だ。
思えば、ああやって燈矢の運転する車で夏雄が助手席というのは滅多にない。ごくたまに、部活の大会など外出時に燈矢が送ってやったときくらいか。
あの二人の関係もすっかり健全な兄弟のそれになった。燈矢のコンプレックスが解消されていくにつれ、夏雄との関わり方もニュートラルなものに変わっていった。
そうして走ること30分ほど、夏雄のアパートに到着する。
再び荷物をぞろぞろとアパートの部屋に運び込んでいき、途中から応利は荷ほどきの手伝いに入る。
地方だけあって1DKの学生には広い部屋だ。彼女や友人を連れてくるには良い広さだが、大学に近いことから友人たちに入り浸られるかもしれない。
なんとか夕方には片付けが済み、そろそろ轟家に帰って夕食の支度をするべき時間になった。
「よし、こんなもんか」
「本当にありがとう、二人とも。マジで助かった」
「ベッドの組み立て頑張れよ」
「う…頑張る」
まだ荷物は多く残っているが、とりあえず寝泊まりはできる。あとは夏雄1人でもなんとかなるだろうから、応利たちの役目はここまでだ。
応利と燈矢は帰宅するために立ち上がる。
考えてみれば、二人も今の家と事務所を引き払う作業に追われるため、これ以降はほとんど轟家に顔を出せない。夏雄と改まって挨拶をするのは今がベストなタイミングだろう。
二人を見送るために同じく立ち上がった夏雄に向き直り、10センチ以上の差がある精悍な顔を見上げる。
「応利君?」
「…今までしんどいこと、たくさんあったのに、いつも周りを気遣ってえらかったな。よく頑張った」
「っ、」
区切りの挨拶だと理解し、夏雄はぐっと唇をかみしめる。そして、そのまま正面から応利を抱き締めた。今ばかりは燈矢も黙認している。
換気していたため体が冷えていたのか、夏雄の温かい体温が心地よい。
「今までずっと支えてくれてありがとう。この歳になった今だから分かる。俺たちのこと支えながら自分のこと頑張るのがどんだけ大変か」
「忙しかったけど大変じゃなかったよ。みんないい子だったし、夏雄もたくさん手伝ってくれたし、何より楽しかったから」
家を出ることや、応利たちが東京に引っ越すこともあって、これが巣立ちの時だという感覚が強くなったのだろう、夏雄は少し涙ぐんでいた。
広い背中に手を回し、ぽんぽんと撫でる。
「自分だけの人生を生きていきな」
「何かあったら俺たちが助けに行く」
応利、そして燈矢もそう述べる。
二人の言葉に、夏雄はただ、頷いた。