それは地獄のような−11
急に意識が浮上し、白い天井が視界に広がる。ベッドに寝ており、ベッドを囲むベージュのカーテンが暖房の風に揺れていた。
ぼんやりとする意識で見渡すと、手の甲には点滴が刺さっており、体中に包帯が巻かれていた。右足にはギブスがはめてある。
記憶を手繰り寄せれば案外と思い出すことができた。
燈矢を抱えて山を下り、ふもとの大きな病院の救急外来に直接乗り込み、「重度熱傷の急患です!」と叫んで倒れこんだ。なんとか仮免許を提示することができたため、ヒーロー活動に伴う急患としてすぐに対応してもらうことができたのだが、そこで応利の意識が途絶えたようだ。
手元に近い柵にぶら下げられたナースコールを押す。少し起き上がれるだろうか、と思って上体に力を入れると、途端に皮膚が引き攣る鈍い痛みが全身をめぐり、応利は呻いてベッドに沈んだ。
「起きられました?」
そこに看護師がやってきてカーテンを開ける。窓から差し込む光からして午前中だろう。一晩明けているらしい。
「…はい。大丈夫です。手術していただいたんでしょうか」
「外科手術をしました。ここは外科入院病棟です。包帯確かめますね」
看護師は体の包帯を少しめくって様子を確認していく。上半身から大腿部にかけて広範囲に包帯がされており、まるでミイラだ。
「大丈夫そうですね。今先生を呼んできます」
看護師はそう言ってその場を後にする。
いくらもしないうちに、男性の医者が現れた。
「こんにちは、圧気さん。外科医の吉原です。体調はどうですか」
「…全身いてぇっす……」
「そうだろうね、かなりひどい熱傷だったから」
「…あの、轟燈矢君は……」
燈矢はどうなったのかと尋ねると、吉原は目を丸くしてから苦笑する。
「自分のことより先に助けた子供のことを聞くとは、さすが雄英のヒーロー科といったところかな。大丈夫、彼も命に別条はないよ。火傷の程度は君よりひどいが、内臓の損傷は火傷の規模のわりにほとんどない。まぁとりあえず君のことだ」
吉原はまず、応利の状態について説明してくれた。
応利の火傷の範囲は、概ね燈矢を抱きしめたときに接触した範囲と一致する。すなわち、左腕から胸部、および腹部から左の脇腹と左大腿部であり、左半身に偏っている。抱きしめていた胸部と腹部のみ、左側から中央部まで広がっていた。
「全体的に火傷の程度は浅達性II度から深達性II度。特に、左上腕と下腹部から左脇腹にかけてはIII度熱傷が見られた。この辺りは学校でも勉強したかな?」
「はい。現代の技術で跡なく治せるのは、大人の場合で深達性II度まで、成長期の子供の場合はI度から浅達性II度までが基本、ですよね」
「その通り、さすがだね。君の場合、まぁ不幸中の幸いというべきか、体の成長はもう一服しているようだから、大半の深達性II度熱傷までの範囲も跡は残らない。III度熱傷になっている左上腕、下腹部、左の脇腹に跡が残るだろうが、ほかはほとんど消えるだろう」
火傷はI度、浅達性II度、深達性II度、III度の4段階があり、深達性II度以上の熱傷は手術が必要だ。
個性社会である今の技術においても、跡なく火傷を完治させることは難しい。成長期の場合は特に、火傷した箇所の成長が周りの皮膚と合わずに引き攣って跡になるため、大人よりも跡が残りやすかった。
どうやら応利の体の成長はすでに概ね終わっているらしく、ほぼ大人と同じ考え方と同じでいいらしい。もう身長は伸びないという宣告と同じであり、むしろそちらの方がショックだ。
「右足については骨に罅が入っただけで軽傷だ。すでにほぼ治っているから、明日にもギブスは取れるし、今日から歩けるなら歩いていい」
「分かりました。あの、燈矢君が目覚めたら会いに行ってもいいでしょうか」
「構わないよ。看護師に伝えておこう。あぁ、燈矢君の症状も聞いておくかい?本来は他人に説明してはいけないんだけど、一緒に暮らしていると聞いているし、昨日保護したのも君だしね」
「お願いします」
吉原は気を利かせて燈矢のことも教えてくれた。家族ではないため、本来は聞いていいものではないのだが、ここはちょうど焦凍と冷が入院している病院でもあるため、轟家の事情も把握しているのだろう。
「燈矢君はまず、体に合っていない個性の使用によって非常に火傷がひどかった。顔を含む上半身のほとんどが深達性II度までの熱傷がまだら模様になっていて、腹部と鎖骨・胸元はIII度熱傷だ。跡になるのは鳩尾部分から両方の脇腹、鎖骨あたりから一部は首筋まで、といったところだが、幸い、顔や腕など見えやすい部分はほぼ跡は残らない」
思ったよりもマシな状態で安堵する。暴走そのものは防げなかったとはいえ、全身に跡が残るようなことにならなかったのは、ある程度、制御訓練をしていたからだろう。
むしろ、跡に残るのは応利と面積的にはあまり変わらなさそうだ。
だが、問題はここからだ。山に来てくれなかった炎司、暴走した恐怖、体に残る痛み、そういったものに苛まれる中で、燈矢は何を思うのだろうか。