それは地獄のような−14


初めて燈矢が応利を見たとき、テレビで見たままのイケメンだな、というのが第一印象だった。

雄英体育祭の1年生の部は、普段ならあまり見ていない。やはり2年生や3年生の方が見応えがある。だが燈矢は、極めて強い個性の生徒が1年生にいるというネットのざわつきを見て、試しに1年生の部を見てみた。
一緒に居間で見ていた冬美と夏雄からは文句が出たが、二人もすぐに黙った。それだけ、応利の戦いが圧倒的だったからだ。

実況解説では、応利の個性は圧力と応力のコントロールであり、任意の空間で気圧を急減させることで酸欠を起こし気絶させる、という戦闘方法で並み居る生徒たちをどんどん打ち負かしていった。

単に強い個性として紹介され、冬美たちも「すごい!」と感動しているだけだったが、燈矢は別のところで驚いていた。
任意の空間で気圧を下げるということだが、相手も当然動いている相手であり、その動きを予想して的確に有効範囲を決定し、即座に個性を発動しなければならない。一瞬の間に、相手の動きの予測、立ち回りの方向、巻き込んではいけない人の有無の確認、空間の指定、個性の発動、狙いの気圧への着地などをすべて行っている上に、相手の動きに合わせてそれらの変数を都度変更している。

まるでAIの演算のようだ。

あまり実況で解説しすぎると、ヒーローになったあとヴィラン側にいろいろと情報が伝わり不利になってしまうため、体育祭の実況は意図的に核心部分を隠している。そこはさすがプロヒーローだ。
それでも、燈矢にはそれくらいのことは理解できたし、応利の個性の使い方がそれだけではないことも戦闘で見えていたため、個性の使い方にこそ応利の凄さがある、と分かった。


個性と体が合っていないことを理由に、ヒーローになるな、と言われている燈矢にとっては、目指すべき姿にも思えたのだ。

そんな応利が家に来たのは驚いたし、テレビの中でもてはやされたその綺麗な顔立ちもそのままだった。
しかし、応利が家に来た理由が炎司に言われてのことだと理解して、一気に冷めてしまった。大方、炎司は職場体験を通して応利を家に呼び、立場の近い者として燈矢を説得するよう頼まれていたのだろう。


だが予想に反して、応利は炎司の指示に従わなかった。それどころか、燈矢がヒーローを目指すことに積極的に肯定してくれた。
忙しい中、個性訓練に付き合ってくれたし、常にまっすぐ燈矢のことを見て、考えてくれた。父親にやってほしかったことを、すべて応利がやってくれた。

この家で起きていることを理解してもなお、絶望的な状況に折れず、燈矢のことも、冬美や夏雄のことも、焦凍のことさえも守ろうとした。


初めてだったのだ。
炎司が燈矢に期待し勝手にその期待をやめ顧みなくなってから、母の冷もそれに追随して燈矢の意志を見てくれなくなってから、燈矢に期待し、燈矢の思いを肯定してくれたのは、応利が初めてだった。

初めて自分を見てくれた、守ろうとしてくれた、ヒーローになれると言ってくれた、ダメなことは叱ってくれた、訓練に付き合ってくれた、炎の中で抱き締めてくれた、命がけで助けてくれた、そして自身も火傷を負いながら燈矢が生きていることを心から喜んでくれた。
燈矢たちのことを想って涙を流し、炎司に臆せず立ち向かい、笑いかけてくれる応利に、この5年間親から顧みられることのなかった孤独の穴が埋まっていくようだった。

強烈で、鮮烈だった。応利の存在は、瞬く間に燈矢の中で大きくなっていた。


退院して帰宅すると、応利は燈矢の部屋で包帯を巻きなおすのを手伝いながら、今後のことを聞いてきた。


「燈矢、これから先、訓練はどうする?怖ければやらなくていいし、ヒーローになりたいって気持ちがまだあるなら付き合う。今すぐ答えが出なくてもいい」


あんなことがあって恐怖はないか、ということだろう。
当然、それはある。あの熱も、焼け死ぬのではという恐怖も忘れることはない。だが、それよりも強い感情があった。


「俺の目標は変わらないけど、オールマイトを超えるとかはもうない。それよりも、俺でもヒーローになれるって証明して、あの親父が間違ってたって示したい。あいつに認めてもらう必要なんかねぇ、俺は俺の力で、あいつを超えてあいつを否定する」


最初は父親のためだった。父親の期待に応えたいという子供の願いだった。
それは変質し、燈矢の中で内在化するにつれて父親に見て欲しいという願望に変わったが、それは、あの夜の炎によって燃え尽きた。

代わりに灰の中から芽生えたのは、別の目標だった。
父親を否定するために、父親を超える。そしてもう一つ、これはまだ言わないが、胸に秘めているものがある。

応利と一緒に並んで戦えるヒーローになる。

父親を否定したいという思いと、応利の隣に立ちたいという思いが、新たに燈矢の中に芽生えた原点(オリジン)だった。


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