五月晴れの出会い−3


車で走ること20分ほど、車はエンデヴァーの自宅に到着した。いかめしい日本家屋、立派な門構えには「轟」とある。
轟炎司、それがヒーロー・エンデヴァーの本名である。

炎司に招かれ、応利は和風ながら機能面では現代的な玄関をくぐる。するとすぐに、白銀の髪をしたきれいな女性が出てきた。


「おかえりなさい。あら、そちらは…」

「職場体験でうちに来ている雄英の生徒だ。子供らに会わせる。圧気、これは妻の冷だ」

「初めまして、本日からエンデヴァーさんの事務所でお世話になっている圧気応利と言います。突然お邪魔してしまいすみません」

「…、そうなのね、ようこそ。ぜひ上がって」


炎司の妻、轟冷は、子供たちに会わせると言った炎司に一瞬顔を曇らせたが、すぐにほほ笑んで応利を上げた。恐らく、炎司の意図を正確に理解したのだろう。それでも何も言わないあたり、やはり力関係は炎司の方がずっと上のように見えた。まるで前超常時代の家庭のようだ。


「お夕食も食べていくでしょう?」

「いえ、そこまでお世話になるわけには…」

「遠慮するな。高校生なら家に帰ってもまた夕飯を食べられるだろう」


炎司は言葉こそ高校生を気遣う大人のそれだが、こちらを見下ろす目には有無を言わさない様子が見えた。大人のすることか、と応利は再びため息を抑える。


「…ではお言葉に甘えて。実のところ、学校の近くで下宿しているので、いつも自分で用意しているんです。正直助かります」

「あら、そうだったの。高校生で自炊なんて偉いわね」


実に上辺だけの会話だ。冷は本心から応利を気遣ってくれているが、それは高校生だからというだけでなく、家のことに巻き込んだ罪悪感もあってのことだろう。その表情は笑ってこそいるが影がある。
実際、応利は下宿先で暮らしており、出身は東京だ。夕飯にあずかれるのは助かる。

長い廊下を抜けて、居間と思しき部屋に通される。畳の広い部屋には高そうなローテーブルが鎮座しており、そこに集まっていた子供が二人、応利を見て驚いたようにした。


「えっ!雄英1年生の圧気応利!?」

「すごい!なんで!?」

「こら、圧気さん、でしょう」


男の子と女の子で、男の子は背が高いが小学校中学年くらいだろう。女の子は高学年に見える。体育祭の実況を見ていたからか、応利のことをフルネームで覚えていた。冷がすぐたしなめるが、応利は笑って腰を下ろして視線を下げる。


「名前でいいよ、よろしくね。今日からお父さんの事務所で職場体験してるんだ」

「そうなんだ!じゃあ応利君って呼んでいい?私は冬美!5年生!」

「俺は夏雄!小学2年生!」


ちらりと炎司を見上げると、応利の意図に気づき炎司が答える。


「長女と次男だ。ほかに6年生の長男と、三男がいる」

「4人兄弟ですか、すごいですね。俺兄弟いないから憧れるなぁ」


子供の手前、応利は当たり障りないことだけを述べる。テレビで出ていた人物にはしゃぐ二人に、冷は「宿題しなさい」と机に広げられた宿題の続きをするよう促した。
応利も立ち上がると、炎司は子供たちを見ずに踵を返す。そういえば、子供たちに「ただいま」とも言わず、子供たちも「おかえり」と言っていない。子供たちの方も、あまり炎司のことを気にしていないように見えた。

子供たち、そして冷から離れて廊下を進む。少し離れた部屋の前で、炎司は襖越しに「入るぞ」と声をかけてから襖をスライドした。
普通の子供部屋であり、勉強机には少年が向かって課題をやっていた。炎司が入ってきたことに驚き、さらにその後ろから応利が顔を見せたことにも目を丸くする。


「えっと、お父さん、その人もしかして…」

「雄英体育祭1年生総合優勝の圧気応利だ。俺の事務所で職場体験をしている」

「よろしくね、燈矢君。俺のことも名前でいいよ」


とりあえずにこりと笑って挨拶をすれば、炎司は無感動に応利を部屋に通して自分は部屋を出ていく。


「俺は事務所に戻る。頼んだぞ」

「えっ」


そしてそう一言述べると、それ以上は何も言わずに廊下を玄関へと歩いて行った。完全に丸投げである。さすがの応利も呆然とした。自分の息子のことだろうに、応利を連れてきたことの説明すらせずに去っていったのだ。
応利はもちろん、燈矢も突然のことにぽかんとしている。当然だ、いきなりテレビに出ていた体育祭優勝生徒が自分の部屋に来て二人きりになっているのだから。

何を言ったものか、と迷っていると、状況を理解した燈矢はすっと冷めた表情をした。


「…あいつに何か言われたんだろ」

「あー…ま、分かるか。そうだよ。ヒーロー目指してるんだって?」


聡明な子なのだろう、燈矢は炎司が応利を連れてきた理由を理解している。端正な顔立ちと可愛らしいふわふわとした母親譲りの白髪は、冷たい表情を余計に強調しているようだった。


「ヒーローになること諦めろって説得するよう言われたのかよ」


全身で応利を拒絶している。ここまでして自分に夢を諦めさせようとしているのか、という絶望にも似た怒りや憎しみもにじみ出ていた。それは当然のことだと思う。


「うん、そう言われた。でも、それに従うつもりはないな。つか、いきなり連れてきて丸投げってどうかしてるだろ!?噂には聞いてたけどあんなやべぇ人だったのかよ!」

「従うつもりはないって…」


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