新たな日常−2


3月に入り、温暖な静岡県は全国に先駆けて暖かい日を享受するようになってきた。伊豆半島ではすでに河津桜が咲き始めており、日差しに春を感じることも多い。

そんな中、冬美は小学校の卒業式を迎えた。この春から燈矢と同じ地元の中学校に通うことになっている。

轟家では、燈矢と冬美の小学校の入学式までは炎司と冷がともに出席していたそうだ。きっと、そのころまでが平和な家庭だったのだろう。
しかし燈矢の体質のことが判明し、夏雄・焦凍が生まれる中で次第に炎司の心は焦躁にかられ、そして燈矢が焦凍を襲って隔離が始まって以降、炎司は子供たちの行事に関わらなくなった。それ以来、夏雄の小学校の入学式や燈矢の卒業式と中学入学式などの行事はいずれも冷が参加してきたそうだ。

しかしそれも終わり、今や子供たちの行事に参加する親はいない。家政婦はもちろん、応利とてさすがに卒業式に参列するわけにはいかなかったが、ずっと1人、というのはさすがに可哀想だ。

そこで、応利はせめて式の最後に迎えに行くことにした。

ちょうどインターンのため学校を休む日だったこともあり、インターンを途中で休み、式が終了する時間に合わせて凝山へ戻ってきた。炎司にも許可をもらっている。

冬美と夏雄が通っている小学校の校門にやってくると、ちょうど校庭で記念撮影が行われている。晴れ渡る青空の下で開催できてよかったと思う反面、撮影をするクラスの中に冬美を見つけ、表情があまり明るくないことに胸が締め付けられる。


「保護者の方ですか?…あら、あなたは…」


すると、校門付近の受付にいた教師がこちらに気づいた。保護者かと声をかけ、すぐに応利だと気づいたらしい。


「あー…エンデヴァーさん、じゃない、轟さんの代わりに、轟冬美さんのお迎えに来ました」

「あぁ、なるほど。インターンされてるんでしたね。どうぞ、入っていただいて大丈夫ですよ」


教師は冬美のところだろう名簿に印をつけて中へ促す。エンデヴァー事務所でインターンをしていることは報道されていたため、すぐに事情を理解してもらえたようだ。
当然ながら、ここ2か月で轟家に起きた出来事は学校もある程度把握している。

お礼を述べて校庭に入り、撮影をしているクラスを遠目に見る離れた位置で止まる。さすがに保護者たちの中に突っ込んでいくのは気が引けた。

そして撮影が終わり、いよいよ解散となる。子供たちを各保護者が迎えに行ったり、子供たち同士でこのあとの予定を立てたりしている中で、応利もようやく近づいた。

手持ち無沙汰になっていた冬美は周囲を見渡し、そこで初めて応利に気づいた。一瞬驚いてから、パッと顔を明るくする。


「応利君!」


名前を呼びながらこちらに走ってきたため、周囲の目がこちらに向かう。応利に気づくと、全員一様に驚いた表情となっていた。


「お疲れ様、冬美。卒業おめでとう」

「なんで応利君が来てくれたの!?」

「お父さんの代わりにね。今日は休みとったから、一緒に帰ろうか。それともお友達と帰る?」

「ううん、明日遊びに行く約束してるから大丈夫!」


すると、こちらに気づいていた冬美のクラスメイトたちがわらわらと近づいてくる。


「すげー!雄英の圧気応利だ!」

「エンデヴァー事務所のパスカルだ!なんで?!」

「冬美ちゃんエンデヴァーの子供だもんね!いいなー、パスカルがお迎えなの?」


卒業したとはいえ小学生、テンションを上げて騒いでいるのが微笑ましい。冬美も先ほどとは打って変わって嬉しそうにしてくれていた。こうして笑顔になってくれるのなら、仕事を切り上げてやってきた甲斐があったというものだ。

いくらか子供たちの相手をしたところで、冬美に声をかける。


「じゃ、そろそろ帰る?」

「うん!みんなまた明日ね!」


冬美はクラスメイトたちに手を振る。子供たちも手を振り返し、二人は学校を後にした。
轟家への帰り道、応利は隣を歩く冬美に尋ねる。


「そうだ、お祝いのケーキでも買って帰ろっか」

「ほんと!?やったー!」


ケーキと聞いて子供らしく喜ぶ冬美だが、きっと、応利がいる場所が冷でも炎司でも親であるに越したことはないはずだ。
これからも子供たちは、親がいない行事を経験していくことになる。応利は親にはなれないし、成り代わるつもりもないが、その埋められない穴をもどかしくも思った。


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