新たな日常−6
5月に入り、ついに最後の体育祭の日となった。
第一種目は学年全員で行う個人型玉入れで、広大なグラウンドに点在する巨大な籠にいかに多くの玉を入れられるかを競う。通常、玉入れは籠単位で測定し、クラスごとに得点とする団体戦だ。しかし今回は、拾った玉を腰につけた専用の機械に触れさせて自分の玉として識別し、その状態で籠に入れることで個人に得点が入る仕組みになっている。籠についても、通常の地面に据え付けられたポール型のものだけでなく、浮遊して動き回るものやこちらにまぁまぁ痛いゴム弾を射撃してくるものまで様々だ。当然、入れるのが難しい籠ほど得点が高い。また、籠と玉を意図的に破壊することは禁じられている。
各生徒は、高難易度の籠を狙って少数の玉を投げるか、低難易度の籠に大量に玉を入れるか、あるいは妨害など場外乱闘に持ち込むか、といった複数の戦法を考慮することになる。
応利は、投げた自分の玉にほかの玉をぶつけてコース変更して高難易度の籠に誘導する方法で点を稼ぎ、最高難易度の籠(上空300メートルまで浮遊可能な戦闘用小型ドローンが周囲に銃撃を行うもの)に複数の玉入れを成功させることで第一種目を1位通過した。しかし、その2位との点差は数点差であり、まさにタッチの差だった。
第二種目は棒引きであり、グラウンドに散らばった棒を自陣に引っ張る散発的な綱引きのような競技だ。これも、通常は団体対団体の1対1なのだが、どの棒を引っ張っていってもいいことになっている自由型である。数名のチームアップによって、序盤は空いている棒を確保すること、中盤以降は相手から奪うことに重きを置くことになる。
3年目ともなれば互いの個性もかなり熟知しているため、チームアップから白熱する。応利は水を発生・操作できる個性の生徒や俊敏に動ける生徒など、自分の弱点を補完できる相手と組んで、この種目も1位通過となる。
ただ、これも一緒に組む生徒のメンバーによっては勝てなかった戦いだった。
加えて、弱点を補完できる相手とは、逆に言えば次の本戦のガチバトルにおいて不利な相手を意味する。一緒に勝ち進むことそれ自体もリスクだったが、通過できなければどのみち同じである。
そうしてついに本戦となる。本戦は全学年共通で、勝ち残った生徒たちによるトーナメント方式の1対1のタイマンだ。
例年通りだが、今回も本戦に出場するのはヒーロー科A組とB組のみとなっている。ちなみに応利はA組だ。
1回戦から3回戦までは順調に勝利したが、ついに最終の決勝戦、相手は応利にとって最も苦手な範囲系+敏捷系の個性の持ち主だった。
相手の個性は「土耕」といって、その名前の通り土を耕す個性だが、その力は実質的に土の操作に等しいものだ。地中から土を固めて突き出して壁のようにしたり、土を爆散させて砂埃のようにしたり、土の中にもぐって素早く移動したりできる。
これまで応利の結果に食らいついてきた総合2位の生徒でもあり、B組トップの成績の持ち主でもあった。
『いよいよやってまいりました、3年生の部決勝戦!本体育祭のメインイベントです!』
ヒーロー科の教師が実況兼解説で観客を煽る。体育祭で最も盛り上がる瞬間であり、会場のボルテージも最高潮、観戦者も最も多く視聴率も最高を記録する。
その大歓声の中、応利はステージに上った。反対からは相手の生徒もやってくる。
この生徒とは去年も決勝戦で戦い、去年の時点では唯一応利が苦戦した相手だった。1年生のときは別の生徒に倒されていたため当たっていない。
今年はすでに何度もこの生徒に苦戦させられていた。
広いステージの反対まで40メートルはある。ふう、と息を深く吐き出すと、静まった会場に開始のブザーが鳴り響いた。
直後、相手の個性によって土のドームが相手を囲み、ほぼ同時に、応利の足元のコンクリートを突き破って土の壁が飛び出してきた。咄嗟に飛び退くが、地面の応力を引き上げることでジャンプに推進力を持たせるいつもの飛び方がうまくできなかった。応利の個性の発動よりもずっと早く地中が崩壊したため、十分な応力を発生させられなかったのだ。ないものに力は与えられない。さすがだな、と内心で舌打ちをした。
ドームに隠れたのも上手だ。応利の個性である「応圧」は、原理としては触れているものの圧力と応力を操作する個性であるが、圧力と応力とはすべての物質に対して連続して生じるものであり、理論上、空気に触れている限りすべてのものに対して遠隔でも操作できる。つまり、触れていることが原理であるが、気圧を介して直接触れていなくても触れているように扱える、という力なのだ。
だからこそ、ドームに隠れることで、相手がいる空間と応利がいる空間が物理的に隔たれ、あの中の空気には個性を作用させられない。酸素ボンベなしでも気圧低下の影響を受けないわけである。
しかも、恐らくドームの影に隠れた隙に地中にもぐっているだろう。応利が個性を使うことで位置を特定、至近距離に迫り攻撃するという作戦か。応利の弱点は範囲攻撃と、俊敏な移動による至近距離での攻撃であり、相手はその両方を同時に行える。