五月晴れの出会い−4


いったい何に巻き込まれたんだ、とぷりぷり怒っていると、燈矢は呆気にとられる。驚く表情は年相応でかわいらしさがあった。


「当たり前じゃん。子供の夢否定するために職場体験来たんじゃねぇっつの」

「…でも、俺の個性、体と合ってないって。お父さんからも聞いてるんだろ」

「それは聞いてるけど…てか、なんでそのレベルで個性と体が合わないんだろうな。強くて真逆の個性同士で子供作らないとあり得ないけど、わざわざそんなことする理由が…」

「オールマイトを超えるため」


それには燈矢が自分で答えた。突然出てきたオールマイトの名前に応利は眉を寄せる。炎司たちには何も関係がない名前だ。超えるも何も、個性の性質がまったく違うし、超えてどうするという話だった。

何より、燈矢の吐き捨てるような言い方からも分かるように、それは応利が話を聞いたときに薄々感じ取った予感が合っている可能性がある。


「…それってつまり、オールマイトを超えられるような力を持った子供をつくるために、わざと強くて反対の相性の個性の人と結婚したってことか?」

「そうだよ。お母さんは氷の個性なんだ。俺の体はお母さんの血を引いてるけど、個性はお父さん譲りだ。だから、自分の炎で火傷するんだって」


個性婚と呼ばれる、子供の個性を操作することを目的にした婚姻関係のことだ。事実上の遺伝子操作、デザイナーベイビーにあたるものであるため禁忌とされる。
きっと炎司は、二人の個性が程よくバランスを取った完璧な子供を求めたのだろう。炎の出力を上げても冷却によって体の負担を下げ、体の外に出力する炎の強さを最大化できるようにするためだ。


「ずっと前から、俺ならオールマイトを超えられるって、お父さんに期待されて、一緒に訓練もしてくれて、俺、ヒーローになってオールマイトを超えたいって思って…でも、この体のことが分かってから、訓練はやめてヒーローは諦めろって、それだけなんだ」


すでに燈矢は、炎司の目的を理解し、それを強く内在化させていた。
ちらりと部屋を見れば、隠すようにしてごみ箱に捨てられた包帯や氷嚢が見える。自主的に炎司には黙って訓練を続けているのだろう。

燈矢は自嘲気味に笑う。


「…俺は失敗作なんだよ。冬美ちゃんも夏くんも。焦凍だけが成功作なんだ」


焦凍、とは恐らく三男のことだろう。子供が4人もいるなんてすごい、と応利は言ったが、これはつまり、成功作ができるまで子供を産ませ続けたということに等しい。
それを燈矢は理解している。

あまりの残酷さに、応利は言葉を失った。現代にあってこんなことが許されていいのだろうか。優性思想そのものだ。

ここで糾弾することは簡単だろう。唾棄すべき考え方だといくらでも批判できる。だが、それで誰かが救われるわけではない。批判する者が気持ちよくなるだけだ。
周囲の者にするべきことがあるとすれば、それは、燈矢を父親から解放することだろう。生きる理由がヒーローになることであり、ヒーローになる理由は父親の期待に応えることならば、人生の目的が父親に囚われたままになってしまう。

かといって、父親を否定し父親の目指すものに適合しようとしなくていいと述べることは、ヒーローになることを諦めさせようとするのと同義である。


「…お母さんは、燈矢君がヒーローを目指すことになんて言ってんの?」

「他にも道があるって。友達を作って外で遊べって」

「そっか…」


さらに悪いことに、炎司も冷も同じことを言っているようだ。両親に揃って否定されてしまうと、子供は居場所がなくなってしまう。

少し悩んでから、応利は慎重に言葉を選びながら口を開く。


「…俺は、燈矢君がヒーローを目指すことには賛成する」

「え…賛成?」


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