新たな日常−11


そうやってひとしきり子供たちに構ってやったあと、3時間目が始まり、これも見届けてから授業はすべて終了となる。
応利は担任と話したかったため、残念そうにする子供たちと別れてから担任のもとへと向かった。ちなみに、夏雄は友達と遊んでから帰るとのことで、こういうあっさりした様子は実に中間子らしい。

担任も、応利が意図を汲んで授業参観に来たと理解しているらしく、すぐに応利を応接室に促した。

職員室に隣接する応接室に通され、ソファに腰を下ろす。向かいに担任の女性教師も座った。


「今日は来てくれてありがとう。轟君もここのところ、たまに表情が暗いことがあったのが明るくなっていて、冬美さんのこともあったからきっと圧気君のおかげでしょうね、と先生方とも話していたんです」

「そうですか…いえ、それでもやはり、母親が入院となれば寂しそうにはしています。どうしても、元通りにはならないと思います」

「そうですね、その通りです。それで…今ご一緒に暮らしてるんですよね、轟さんのお宅は今、どんなご様子ですか?」


直接的な話し方をあえてしたため、担任も直接聞いてきた。応利は、うっかり正直に話せば大事になるため、事前に決めておいた範囲で話す。


「ご家庭の事情ですので、さすがに僕の口からは詳しいお話はできません。ただ、とりあえず現状をお伝えすると、長女で中学1年の冬美ちゃん、次男の夏雄君はすでに母親と面会していて、母親側も落ち着いた容態です。とりあえず、まったく先の見えない不安な状況ではなくなっています」

「お母さんに会えてはいるんですね、それはよかった。確か、冬美さんの1つ上にもお兄さんがいたと思うんですが」

「はい、長男の燈矢君は中学2年です。父親とはもともと折が悪く、今の家の状況にはあまり関心がない様子です。彼は雄英を目指しているのもあって、僕は良好な関係を維持しています。弟たちのことも可愛がってますよ」


概ね事実だ。原因の部分はさすがに話せないし、応利の口からは言えないという道理も担任は理解を示した。


「家は家政婦の方がいるので、家事については問題ありません。僕ももとは下宿していたので、基本的な家事はできますし家政婦の方と必要に応じて分業しています。ただ…」

「ただ?」


担任が表情に心配を浮かべる。応利が相談したかったことはここからだ。これは、どちらかというと焦凍のことだった。


「…エンデヴァーさんは多忙であまり家にいませんし、もともと口数の多い人ではありません。それもあって、家での子供たちの発話量に心配があります。特に、夏雄君と、三男でまだ5歳の焦凍君という子については懸念があります。幼いうちの家庭での発話量が長期的な影響を持つ、と聞いているので、どうしたものかと思ってまして」

「さすが雄英のヒーロー科ですね、その年齢でそこまで気遣いができるだけでもすごいことだと思います」


担任はそう言って、いくつかアドバイスをしてくれた。

やはり、家庭において学校での出来事などを雑談として安心して会話できるようにすることは重要だという。安心して話せると無意識に判断できるようにするためには、否定をしないのはもちろん、話したくない事柄を掘り下げようとしないことも重要だそうだ。
また、Yes/No式の質問ではなく、感情や考えを聞けるような質問をして会話を続けるのが重要であり、なんであれ話してくれたことに肯定を示すべきだという。

さすが本職だ、とても参考になった。夏雄はもちろんだが、これは焦凍の方にむしろ役立ちそうなアドバイスだった。


「ありがとうございます、助かりました」

「…本当は、圧気君の立場でこういうことに気を回す必要はないはずなんですが、今の轟さんのお宅では、実際のところ圧気君だけが頼り、という状況なんだと思います。ヒーロー科とはいえまだ高校生なのに、教師としてこんなことを頼むことは決して健全ではありませんが、それでも、夏雄君や子供たちのことを、よろしくお願いします」

「そういうのが苦にならないからヒーロー目指してるんで、大丈夫ですよ。こちらこそ至らないことばかりだと思いますが、ぜひサポートお願いします」


真面目な人なのだろう、あれだけテレビでヒーローとして目立っている応利であるというのに、きちんと高校生として扱ってくれている。
確かに担任の言う通り、応利の立場でこんなことをする必要も道理もない。だが、そこに泣いている子供がいて、助けを求めている子供がいた。ただ、それだけの話だった。


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