新たな日常−18


そしてクリスマス当日、応利はまず、先に焦凍と一緒にご飯を食べてから、今度は燈矢たちの食卓でケーキを一緒に食べるという形で、それぞれの食卓についた。
こういう行事においてはなるべく全員と一緒にいてやりたかったのだ。

ちなみに、クリスマスは犯罪発生率が急上昇するため、プロヒーローたちは軒並み出勤だ。インターンである応利は、恐らく今後数年で最後となるだろうクリスマスのオフとなっている。炎司も夜勤のため午後から出払っていた。

そうして夜になり、寝ている焦凍の枕元に買っておいたオールマイト人形を置けばクリスマスは終わるはずだった。
しかし、焦凍は興奮した面持で目を見開いて待っていた。


「…焦凍?寝ないのか?」

「サンタさん見たいから起きてる」

「そっか…」


いったん応利は焦凍の部屋を出て、廊下で立ったまま考える。焦凍はあれでかなり頑固な性格だ。今日は炎司の訓練もなかったため元気が余っていることもあり、起きていようと思えば遅くまで起きられてしまう。

しかも困ったことに、焦凍は気配にも敏感だ。正確には、添い寝で寝かしつけると、起きたときに焦凍も起きてしまうのだ。炎司の訓練によって焦凍の体調が悪いときはよく一緒に寝てやっていたため、それはよく理解している。
応利が寝かしつけても、人形を取りに戻れば起きてしまうだろう。

これは作戦を変更するほかない。そう考えて、応利は燈矢のところに向かい、ちょうど風呂上りで脱衣所から出てきたところを捕まえる。


「燈矢、ちょっと頼みがある」

「なに?」

「焦凍がサンタを見るって言ってずっと起きてる。俺が寝かしつけても、俺がプレゼント取りに起き上がると絶対起きるんだよ、あいつ。だから、俺が寝かしつけたらチャット飛ばすから、プレゼントの人形持ってきてくんね?」


応利の頼みに、焦凍は少し驚く。焦凍が隔離されている原因が燈矢にあることを知っている応利が、その燈矢に手伝わせることが意外だったのだろう。今回は焦凍も寝ているため、別に炎司も怒らないはずだ。


「…なんで俺が、って言いたいところだけど、分かった。プレゼントってどこにあんの?」

「俺の机の上に置いてあるオールマイト人形」

「ぷっ、オールマイトなんだ、エンデヴァーじゃなくて…分かった、連絡もらったら持ってく」


焦凍がお願いしたものが父親のものではなかったことを笑いつつ、燈矢は了承してくれた。燈矢にとっても複雑なところだろうに、こうして頷いてくれるあたり、やはり優しい。


そうして、なんとか応利は焦凍に添い寝して寝かしつけることに成功、氷の膜が張る鼻提灯を膨らませて寝息を立てているのを確認して、応利は燈矢にチャットを入れる。
それからほどなくして、燈矢がそっと襖を開いて中に入ってきた。ぽん、と焦凍の胸元に手をやり優しく一定のリズムを刻むのを止めずに、枕元を示す。


「そこに置いておいてくれ」

「ん。これ本当に起きんの?」

「不思議なことに、ここから起き上がると起きるんだよ。喋ってても起きないってのに」

「変なの」


燈矢は人形の入った箱を焦凍の枕元にそっと置く。口ではいろいろ言いつつ、起こさないよう慎重に箱を置くのを見ると、長男だな、と感じた。



一方の燈矢は、焦凍を寝かしつけている応利を見て、なぜかドキリとしてしまった。
焦凍を見つめる慈愛に満ちた応利の表情は、体育祭で見せる好戦的で真剣な表情や、なんでもないときに笑う屈託のない様子ともまったく違う。

そんな応利が焦凍に添い寝の姿勢でいるからか、燈矢は、あれほど自分の中にあった焦凍への複雑な感情がさらに萎んでいくのを感じた。
もともと、炎司のことを見限ってからというもの、焦凍への感情も冷え切っていた。それは無関心であり、特になんとも思わない相手でしかなかった。
それが、こうして応利が寝かしつけているところを見ると、急に焦凍が可愛らしく見えてきたのだ。なんというか、「自分とは違う成功作」ではなく、「自分の弟」という本来の姿に見えるようになってきた、といった方が正しい。


「…なんか、初めてこいつのこと可愛いと思えた」

「なんだかんだ、燈矢は生粋のお兄ちゃんだもんな。頼りになる」


こちらを見上げて微笑む応利は、ただでさえイケメンだと世間でも周囲でももてはやされているというのに、さらに輪をかけて綺麗に見える。
以前から、応利は燈矢に対して、明確に冬美以下の子供たちとは違う対応をしていた。一方、叱るときも励ますときも、感情より事実や客観性を優先するところは、親のやることとは異なり、先輩や兄のやるようなやり方だ。
そして、こうして頼られたり、ときに雑に扱われたりすることが、対等に近づけているようで嬉しかった。


ここのところ、応利への感情が変わってきているような気がする。それがどういうものなのか、そもそも元の感情が何でどんな感情に変わろうとしているのかも言語化できない。
だが、確実に何かが変わっている、ということだけは自覚していた。


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