五月晴れの出会い−5


否定しない、反対しない、というレベルではなく、賛成と言い切ったことに燈矢は意外そうにしていた。応利の様子から、否定せず好きにさせる、というところで手を打つと考えていたのだろう。それは実際正しい。当初応利はそうしようと思っていた。ここまで踏み込んだ言い方をするつもりはなかった。


「やってみないと分からないことなんて世の中掃いて捨てるほどある。その中には、やってみることで不利益が生じることもある。でも、ヒーローを目指すことはそうじゃねぇと思う」

「なんでそうじゃないって言えんの。それこそ、やってみないと分からないことじゃん」


本当に頭がいいな、と応利は内心で驚く。小学校6年生でこの返しができるのは凄まじい頭の回転の速さだ。


「いやだって、ヒーローになるために必要な知識とか、体力づくりとか訓練とか、あとは雄英高校みたいなレベルの学校に行くのとか、そういうの全部、なんにでも応用できるし。そもそも雄英高校は偏差値国内トップなんだから、そこを出てるってだけで社会では有利だろ?要はさ、ヒーローになることを諦めるのは、今じゃなくてもいいんだよ。別に高校まで行ってからでも遅くねぇどころか、さらにいろんな道が広がる」


単純な話だ。ヒーローを目指す過程で得たものは応用が利くものばかりだ。大体の職業への道が開かれるし、雄英高校ともなればなおさらだ。


「お父さんとお母さんは、君に怪我をしてほしくない、命に危険を及ぼしてほしくないから、ヒーローになるなって言ってるんだ。逆に言えば、君が怪我を減らして危険を低減できればいいってことじゃん?」

「そう…かな…?」


さすがに少し強引だっただろうか。筋は通っているため一応納得はしているようだったが、両親がもっといろんな背景からヒーローを諦めるように言っていることも理解しているため、単純化しすぎているとは思っているのだろう。


「ヒーローを目指すための勉強や訓練は将来のためになる。危険を減らせれば君の夢を否定する根拠も薄れる。それなら、今するべきことは諦めることじゃなくて、具体的に道筋を考えて実行することだろ?」

「それは…うん、確かに」


ようやく、燈矢の表情が明るくなる。この部屋に入って初めて、その青い瞳に光が差したような気がした。


「自主訓練するなら、今やるべきことは火力を上げることじゃなくて精密にコントロールすること。炎系の個性は人口が多いからな、ライバルも多い。火力よりもコントロール力の方が評価されるし、実戦でもそう。そもそも個性は身体能力だから、基礎体力や筋力の向上も欠かせない。やるべきことは、炎の精密なコントロールの訓練と筋トレ、体づくり。よく食べてよく寝ること。心配させないように怪我はちゃんと手当すること。怪我を避けるための無理な動きが変な癖になることもある」


一気に挙げていけば、燈矢は慌ててノートにメモを取った。宿題用のものだったはずだが、さすがにそこまでは応利の知ったことではない。
そして応利は最後に付け足す。


「そんで一番大切なことは、どんなヒーローになりたいのか、ヒーローになって何をするのか、考え続けること。すぐ答えが出なくていい。でも、燈矢君にとっての答えをずっと探し続けるんだ」

「分かった。…ねぇ、応利君」


初めて燈矢に名前を呼ばれる。不安そうに、しかし期待を込めた目で応利を見上げていた。椅子に座っていることを差し引いても、やはりまだ小さく幼い。


「…俺、ヒーローになれるかな」

「なれるよ。きっと誰かを助けられる」

「…うん!」


嬉しそうに笑った燈矢に、つい応利はその頭を撫でる。見た目通りのふわふわとした癖っ毛で、「なんだよ」と言いつつ拒否しない。
きっと、炎司にしても冷にしても、ただ抱きしめて肯定してあげればそれでよかったのではないか、と思ってしまう。だが過去のことを言ってももう遅い。


「…時間が合えば訓練も見てやるよ」

「ほんと!?」

「ん。じゃあ連絡先交換するか。あんま良くねぇことだけど、まぁ、あの人が巻き込んだんだしいいだろ」

「よっしゃ!!」


無邪気に喜んでいる燈矢に自然と応利の表情も緩む。この子が自分で自分の道を見つけられるように寄り添う、それが、ここで出会った応利の役割だと思った。


そんな、二人の始まりの日だった。


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