新たな日常−20
焦凍の誕生日から1週間後、1月18日に今度は燈矢の誕生日を迎えた。
応利は合法的にケーキを食べられると期待していたのだが、当然のように「どんなケーキがいい?」と聞いたところ、燈矢からは「別にクリスマスで食ったばっかだからいらねー」と返されてしまった。
食事の席だったため、居合わせた夏雄と冬美にも援護を求めたものの、二人ともあまりケーキには拘りがなかった。個別に買うタイプのケーキやプリンなどは別なのだろうが、誕生日ケーキとして想定されるホールケーキはそれほどでもないらしい。
これだから金持ちは、と思ったものの、本人の意思が優先である。
泣く泣く応利はケーキを諦め、代わりに大量の肉を用意した。育ち盛りの燈矢と夏雄はもちろん、意外としょっぱい料理が好きな冬美も肉は大好きであるため、せっかくなら誕生日っぽくしようと考えている。
夕食の準備をする時間となったため、事前に家政婦にお願いし、一緒に作らせてもらう。
家政婦はそれなりに年を取っていることもあり、今年から少しずつ応利が家事の一部を担うことになっていた。主に平日の朝食と休日の食事であり、応利が不在のときの応利の担当分とそれ以外の食事を家政婦が担う。
その準備も兼ねて、一緒に台所に立たせてもらう機会を増やしていた。
今回作るのはミートローフケーキだ。
ミートローフとは、ひき肉と刻んだ野菜などを混ぜた肉のたねを成形して焼いた料理のことであり、それをマッシュポテトなどを使ってデコレーションするのがミートローフケーキである。
特に拘りがないという燈矢であっても、肉のケーキに心躍らないわけがない。負けてたまるか、とケーキが食べられなかった腹いせではないがなぜか闘志があった。
通常のひき肉よりも細かくする必要があるほか、牛肉と豚肉を混ぜて合いびき肉にすることもあり、応利はまな板でかなり細かく刻んでいる。フードプロセッサーがこの家にはないため、市販のひき肉と普通の赤身肉をひたすら包丁で切り刻んでいた。
筋トレをしているとはいえさすがに疲れるな、と思っていると、家政婦が感心する。
「さすがヒーロー科ですねえ」
「これでも筋力は弱い方なんで…。それにしても、フードプロセッサーくらいあってもいいですよね。エンデヴァーさんに聞いてみようかな…あったら使いますよね?」
「そうですね、一つあれば市販の調理済みのものに頼る必要がないので、自分で素材の配分を変えられますからね。お肉だったら、脂肪を減らして赤身メインにする、みたいなことが自分でできますし」
「そっか、市販のひき肉は部位が固定されてますもんね。よし、じゃあ頼んでおきます」
炎司は、応利がこの家のために何が必要か、というのをきちんと考えていることを理解し、信頼してくれている。そのため、子供たちにとって必要なものであれば難なくお願いは通るだろう。
そうして肉と格闘すること15分、下準備ができたため、あとは一気に仕上げていく。ミートローフケーキは、作り方自体は非常にシンプルだ。
ひき肉を成形して焼いて、味付けをして、マッシュポテトで整えるだけだ。下準備に時間を要するだけである。
家政婦の力も借りて、ミートローフケーキを作り終える。我ながらなかなかの出来だ。家政婦も「すごいですね」と感心してくれていた。
きちんとホイップ状にマッシュポテトをクリームかのようにデコレーションしており、自家製のミートボールをイチゴに見立てて配置。ソースは焼肉のたれメインで味を調整しており、見た目も味も完璧だ。
食事の時間となったため、燈矢たちが集まる。豪華なものにするという話はしていたが、応利が巨大なミートローフケーキのトレーを持って現れた瞬間、3人ともポカンとした。
「つーことで今日は俺がお手伝いさんと作ったミートローフケーキだ。ま、要は肉のケーキだな」
「これ肉!?すげー!!」
すぐに夏雄が目を輝かせて百点満点のリアクションを返す。冬美も、すぐにスマホで写真を撮った。
「本当にすごい!お肉でケーキ作れるんだ!周りのやつはポテトなんだ、面白いね」
こちらもすぐに調理内容に気づき、良いリアクションをくれる。さて、と応利は燈矢を見下ろした。
「どうだ燈矢、ケーキに興味ないらしいけど、これなら別だろ?」
「…うん、マジでうまそう。はは、ケーキいらねーって言ったからって、ケーキっぽく飯作るとか、すごいな」
呆気に取られていた燈矢は、応利がこれを作った理由を察して小さく笑ってから、こちらを見上げる。最近はニヒルな笑い方が増えていたが、今は純粋に嬉しそうに笑った。
「ありがとな、結構嬉しい」
「っ、」
柄にもなくこっちが照れてしまい、それを誤魔化すように慌てて燈矢の脳天をぐりぐりとする。
「めちゃくちゃ嬉しいですありがとうございますだろ〜?」
「いてて、分かったって!」
二人の様子を見て夏雄と冬美も笑う。心身ともに急に成長している燈矢が、見慣れない表情をする機会が増えてきていて、応利はそれになぜかドキリとするようになっていた。