目標への道−1


季節が廻り、轟家で暮らすようになって2回目の春が来た。
この春、応利は雄英を卒業し、正式にエンデヴァー事務所のSKとしてプロヒーローの道に進んだ。

学校よりもずっと近いため、これまでよりは朝に時間がある。その時間を使って、応利は家政婦とともに朝食の支度や子供たちの世話などを行っている。
しばらくの間、家政婦が炎司と焦凍の朝食を、応利がほかの子供たちと自分の朝食を用意することにしているが、基本的には同じメニューであるため、家政婦が作り終えたあとに応利が交代して作る、という流れだ。下準備などは家政婦がやってくれてあるため、当面の間、応利は焼くだけ、茹でるだけ、というような後工程のみで済む。


「夏雄、燈矢、朝だぞ起きろ」


男子の子供部屋の襖をスパンと開き、応利は中に声をかける。
新生活が始まってすでに1週間、新しい生活リズムにはもう慣れてきている。ちゃんと自分で起きて支度をしてくれる冬美と違い、この二人はギリギリまで寝ているのだ。

布団から二人がのそのそと起き上がり、二度寝する気配がないことを確認してから、応利は台所に戻る。出退勤時は私服で良いため、応利はまだ部屋着のままでいられるのが助かった。

そこに、顔を洗った冬美が洗面台から出てくる。


「応利君おはよ」

「おはよう冬美。もうご飯つけておいて大丈夫か?」

「うん、ありがと」


冬美と夏雄は個性も体質も冷のそれと同じであるため、熱いものが少し苦手だ。燈矢は個性こそ炎熱だがやはり体質的には冷たいものの方が好ましいようで、基本的にあまり熱々のものは出さないようにしている。
先に冬美の分のご飯と味噌汁を用意してから、おかずとなる目玉焼きとソーセージを焼いていく。その間に部屋から出てきた夏雄は洗面台へ、燈矢は冷蔵庫から水を出してコップに注ぐ。


「おはよ。コップそこ置いとけ」

「おはよう…ん、分かった」


まだ少し眠たそうにしている。燈矢は特に朝が弱いということはないが、受験生となって遅くまで勉強することも増えたため、少し寝不足気味に見えた。

燈矢と入れ替わるように夏雄が洗面台から居間にやってきた。


「夏雄、自分の分のご飯つけて待っとけ」

「はーい」


夏雄は朝も夜も元気だ。顔を洗いさえすればハキハキ喋る。自分の分のご飯をよそうのを見ながら、先に夏雄の分の味噌汁をお椀に用意する。冬美の分の目玉焼きとソーセージも焼けたため、サラダとともに皿に盛りつけ、さらに夏雄の分の目玉焼きとソーセージをフライパンにセットしてから、二つとも持って居間に運ぶ。

ちょうどどこに冬美がやってきて、先に食べ始めた。


「いただきまーす。応利君はもう食べたの?」

「あぁ、食べてからお前らの準備してる。夏雄、玄関のところに給食袋入ってるから忘れんなよ。焦凍の分もあるから、確認してやってくれ」

「んー」


お茶を飲みながら夏雄は頷く。しばらくの間、小学校に入学して1年生になったばかりの焦凍と一緒に夏雄が登校している。毎朝、夏雄は少し気まずそうにしているが、忘れ物がないかなど、わりと兄として面倒をみてくれているようだった。

台所に戻り、夏雄の分の目玉焼きとソーセージを皿に移し、燈矢の分をフライパンにセットし、燈矢の味噌汁を用意してから居間に運び夏雄に食べさせ始める。そこに燈矢もやってきたたため、白米だけ自分で用意させる。
一番遅く家を出るのが燈矢であるため、食べ終わったあとに食器をまとめてシンクに片付けるのは燈矢の役目だ。その後、家政婦が洗っておいてくれる。

そして燈矢の分のおかずも居間に運んだところで、そろそろ出発する時間となった。完璧な動線だ。


「じゃ夏雄、給食袋頼んだぞ。燈矢も食器頼むな。俺はそろそろ出るから」


子供たちが口々に「いってらっしゃい」と言ってくれたのに返してから廊下に出る。自室に向かうと、廊下の奥からとてとてと焦凍が歩いてきた。手に持っているノートを見て呼吸が止まる。


「やっべ連絡帳忘れてた…!」

「ん!」


焦凍に手渡され、慌てて応利は連絡帳に書き込む。最低限のことだけを殴り書きつつ、ちゃんと持ってきたことを褒める。


「よく覚えてたな、えらいぞ」

「夏兄がやってたから」

「そういや昨日の朝もやったな…」


昨日の朝、夏雄の連絡帳を書き忘れて玄関で急いで書いた覚えがある。それを見ていた焦凍が自分で持ってきたようだ。

こういうところはまだまだだ。しかも、家政婦に朝食の準備も6割方やってもらってのコレである。完璧にこなせるようになる道はまだ長かった。


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