目標への道−2


SKはインターンとは比べ物にならないほど忙しく、いわゆる社会人となった応利の日々はものすごい勢いで過ぎていった。

あっという間に季節が変わり夏となり、真夏のヒーロー活動に辟易とする中で、応利は燈矢からある頼み事をされた。

それは保護者として三者面談に参加することだった。炎司は当然参加しないものであり、これまでは三者面談であっても燈矢と担任だけで行っていたそうだが、受験生の8月ともなればさすがに、というのが学校の本音なのだろう。
燈矢は推薦入試で雄英に行くことを考えており、推薦を出す側としても確かめることがあるため、当然のことだ。

もしかしたら今の炎司なら参加してくれるかもしれなかったが、依然として炎司は燈矢がヒーローになること自体には否定的なままである。それなら、やはり応利が参加した方がいいだろう。高校も卒業し、一応は大人として振る舞える年齢でもある。

そうして、8月のお盆の前に三者面談が行われることになり、応利は炎司の許可を得て仕事を休み、燈矢の通っている中学校にやってきた。
夏休みの学校は静かで、校庭からサッカー部らしい部活の生徒たちの声が聞こえてくるものの、校舎内は閑散としていた。

教室の前までやってくると、すでに燈矢が待っていた。ちゃんと制服を着ており、私服の応利はなんだか浮いている気がした。そもそも生徒でないのだから浮いていて当然なのだが。


「今日暑いな、早く免許取りてぇ」

「仕事休ませてごめん」

「いや、こういうのも経験だし」


自動車免許のスクーリングを仕事の傍らしているが、早く免許を取って涼しい車で移動できるようになりたいところだ。
そんな世間話だったが、燈矢は暑い中仕事を休ませてまで面談に来てもらっていることに殊勝な態度を取った。時間の無駄、と本人が思っているからだろう。担任のことすら見下しているのだ、こんなことに付き合わせたくないといったところか。

時間となり、担任の女性教師もやってきたため、教室に通される。涼しい教室の中央には、三者面談用に机と椅子が向かい合うようにくっついて並べられていた。

2つ並んだ方に応利と燈矢が座り、向かいに教師が腰を下ろす。


「暑い中お越しいただきありがとうございます。圧気さんは、エンデヴァー事務所…燈矢君のお父様のところでSKをされているんでしたよね」

「はい、この春から。轟さんの家に居候しているのは去年からです」


一緒に住んでおり、かつ三者面談に代理で参加させられるほど炎司からの信頼を得ているのだと理解して、教師は安心したように話を進める。まったく家庭に話が伝わらない、ということにはならないからだろう。

しばらく学校での様子などを聞くが、案の定、「もう少しクラスメイトと交流できるといいんですが…」と遠回しに苦言を呈していた。燈矢は不機嫌そうにしているが、応利もそれには特に何も返さなかった。親ではないため、学校でのことに目くじらを立てるつもりはない。


「さて、成績ですが、こちらは学年トップを維持しています。どの科目も非常に優秀で、ほかの先生方も高く評価しています」

「おお、さすがの内申点だな…」


机に広げられた成績表はオール5、極めて高い内申点を誇る。普段の定期テストなども高得点であり、これは確かに、雄英への推薦が出せるレベルだ。


「私たちとしても、雄英高校ヒーロー科への推薦入試の出願に問題はないと考えています。圧気さんは推薦と一般、どちらで入学されたんですか?」

「僕も推薦入試なんです。なので、入試対策は問題ありません」

「そうですが、それは頼もしいですね」


学校としても、雄英高校への進学実績は周辺地域において自慢となるし、教育委員会での評価も上がるため、燈矢には合格して欲しいところだろう。


「さすが、ヒーロー・エンデヴァーの息子さんです。圧気さんのサポートもあれば百人力ですから、まったく問題ないでしょう」


その教師の言葉に、燈矢は不快そうにした。炎司の名前が出たから、というだけではない。この素晴らしい成績がエンデヴァーの息子としてふさわしい、という文脈だからだ。

応利は親ではないが、それでも言うべきことは言うべきだ。


「…彼の努力であり、彼が培った力です。俺やエンデヴァーさんは関係ありません。こいつ自身の力と努力で、きっと雄英に行けると確信しています」

「っ、応利…」


驚いたようにこちらを見上げる燈矢。担任も言葉に詰まってから、「そ、そうですね、その通りです」ととりなした。別に怒っているわけではないし、そういうトーンでもなかったが、やはり圧は感じたことだろう。

その後は当たり障りない会話が続き、三者面談は終了となった。終始気まずそうにしていた担任とは異なり、燈矢の機嫌はよくなっていた。

帰り道は一緒に家へと向かう。通学路の途中、暑い日差しが照り付ける中、燈矢が口を開いた。


「…応利、今日は来てくれてありがとな。さっきの、嬉しかった」

「…ん、そっか」


反抗期を過ぎた、というわけではないが、最近はわりと燈矢がこういう言葉をためらいなく言うようになってきた。気恥ずかしさはゼロではないようだったが、口にすることをためらうほどではない様子である。
燈矢の家族への反発は自分を否定されていることに由来するものだった。燈矢を否定しなかった応利にも、安心できる相手としての反抗こそしてくれたが、親にしたような反発は一切ない。
そんなに年齢は離れていないはずなのに、こうやって大人になるんだな、と感慨深いほどだ。

一方、応利はついでに、先ほどの面談で聞いた気になることを確認する。


「てか燈矢、本当に修学旅行行かねえの?最初から積み立てしてないって…」

「あー、それね。時間の無駄だし」


終わり際、担任が修学旅行に行くならまだ間に合う、と言っていた。どうやら修学旅行の積立金を払っておらず、学校側には行かないと伝えていたらしい。燈矢本人からも、炎司からも言われていたため、学校側もこれまで何も言わなかったそうだが、応利と燈矢の様子に、最後の確認をしてくれたようだ。
気が変わっているかもしれない、という配慮である。まったくそんなことはなかったようだ。


「雄英のヒーロー科は修学旅行とかねぇから、行っておいた方がいいぞ」

「いいよ。もうクラスの中での関係性とか班決めとかも終わってるし。それより、修学旅行中はまとまった時間あるんだし、応利も時間くんね?訓練やろ」

「…ま、燈矢がいいならいい。分かった、時期だけ教えてくれればなるべく開けとく」

「よっしゃ」


どちらにしろ、受験に向けて実技試験の訓練も必要だ。救助の要素が重要となる一般入試と違い、推薦入試は能力値の高さが重視される。修学旅行は9月下旬ごろとだけ聞いており、タイミングとしてはかなり重宝する時期ではある。

ヒーローになるにしてもならないしても、若いときの経験というのは重要だ。その若いときにまだ分類される応利が言うのもおかしな話だが、燈矢にもいろいろ経験して欲しい気持ちはあった。だがそれも燈矢の人生である。
そう決めたのなら、応利は燈矢の意思を尊重するだけだ。


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