目標への道−4
この家にやってきて2度目のクリスマスイヴを迎えた。
昨年同様、冬美の誕生日ケーキの代わりとしてクリスマスケーキを予約してある。今年は平日のため、夜は家政婦が豪華なものを作ってくれている。
一方、応利は今年からSKとしてクリスマス出勤を余儀なくされている。疲弊した事務所のSKたちの表情は昨年も見ていたが、実際にやってみれば確かにしんどい。
今年のイヴは金曜日ということで、例年より事件の件数が増えて出動が増えることはもちろん、パトロール中に楽しんでいる人々を見ているのも苦痛だ。応利の場合、人々に声をかけられたり握手を求められたりといったこともさせられ、さらに疲弊した。
とはいえ、まだ高校を卒業したばかりということで、SKたちは応利を先に上がらせてくれたため、夕食までには帰宅することができた。
おかげで、今年も焦凍を1人にしないでおける。
そうして焦凍と夕食を食べ、学校があったため疲れて寝てしまっている隙にプレゼントを枕元に用意しておいた。
その翌朝、応利が朝食を用意していると、焦凍が台所までやってきた。
「サンタさん来た!」
「おー、良かったな。プレゼントなんだった?」
「チーズ!お手紙に書いたのと一緒!」
差し出された箱の中身は当然知っている。焦凍のサンタへの手紙に書かれた希望を見て、驚きつつ応利が買ってきたものだからだ。
今年、焦凍が望んだのは、大きな塊のチーズだった。アニメでやっていたのを見て食べたくなったらしい。丁寧にイラストで図示してくれたため、同じような形状のものを専門店で買ってきた。癖のないスイスのチーズである。
「にしても、どうやって食べるんだ?」
「ぼくの炎で焼いて溶かす」
「あー、暖炉で溶かして食べてたのか?」
「ん!」
どうやら焦凍が見たアニメでは、暖炉を使ってチーズを炙って溶かしていたようだ。アルプスのあの名作アニメだろう。当たり前だが、こんな和風の邸宅には暖炉などないし、かといってさすがに囲炉裏もない。
焦凍は自前の炎でやろうとしているようだったが、そこで閃いた。
「じゃあ、昼に一緒に食べようか」
「分かった!」
今日は土曜日のため、昼食と夕食も応利の当番である。冬美と夏雄はそれぞれ友達と遊びに行くため、もともと今日の昼は応利と燈矢と焦凍の3人分だった。ちなみに炎司は今日も出ずっぱりであり、応利は午後から出勤となっている。
そして昼になり、応利は燈矢を庭に呼び出した。
応利は焦凍と縁側で待ち、燈矢はやってくるなり驚いた。焦凍と一緒だからだろう。
「え、どうしたの」
「今日の昼飯でやりたいことあってな。ほらこれ、焦凍がサンタさんにお願いしたクソデカチーズ」
「いやでっか……」
応利はずっしりとしたチーズを見せる。燈矢はそのでかさと、そんなものをクリスマスに頼む焦凍の神経に引いていた。焦凍は気にせずワクワクとしている。
「ということで、燈矢が炎出してくれ。俺と焦凍でチーズを焼く」
「はぁ?!俺が焼くのかよ!」
「燈矢兄が焼いてくれるの?」
まさかの要求に燈矢は素っ頓狂な声を上げ、焦凍は期待したように燈矢を見上げる。
「火力調節の訓練の一環だな。炎の伝達速度をコントロールする練習だ」
「いや別に訓練になるようなことじゃねぇだろ…」
「甘いな燈矢。一瞬で高温にすれば表面が炭化して中に熱が通らない。分かるだろ?炭は温度を通さないんだよ。表面を焦がさず、中に熱を浸透させる。でもちんたらしてれば溶け出して形が崩れる。絶妙に溶けつつ中まで熱を通すのは難しいと思うぞ」
応利の説明に、燈矢は反駁の言葉を探すが見当たらなかったようで、しぶしぶため息をつきながら「分かったよ…」と頷いた。
了承も得たところで、3人は庭に出る。応利はチーズをいくつかのブロックに切り分けて長くしっかりした串を刺し、1つを焦凍に、もう2つを自分で持つ。
「じゃあ燈矢、頼む」
「はいはい」
燈矢は諦めたように手から青い炎を出す。かなり安定して高温の炎を出せるようになった。
燈矢の青い炎を初めて見た焦凍は目を輝かせる。
「すごい、青い色してる!」
「炎は青い方が温度が高いんだ。触っちゃだめだぞ。じゃ、ゆっくり近づけて」
「ん!」
焦凍はチーズを恐る恐る燈矢の手の上にかざす。炎に触れると、すぐに表面が泡立つ。
「ちょっと温度高いな」
「…、意外と難しいんだけどこれ」
「そう言っただろ?」
もともと重いこともあり、応利は焦凍の串を少し支えてやりつつ距離を取らせる。火元が大きくないため、温度は高くても輻射熱は足りず、暖炉のように離してしまうと熱が通らない。
焦げない位置で固定させ、応利も自分の串をかざす。燈矢は集中して熱の加減を行い、なるべく3つのチーズの塊それぞれの表面から均等に熱が伝わるように、火力と炎の形をコントロールする。
もちろん、炎は気体のため形というものをはっきりさせられないが、指向性を持たせることはできる。それによって、チーズの裏側まで熱を伝えるために炎を動かしていた。
やはりさすがのセンスだ。もうすでに感覚を掴んだようで、チーズはいい感じに溶けてきていた。
「すごい!燈矢兄すごいね!」
アニメで見たようにチーズが溶け始めたのを見て焦凍は大喜びする。それを見て燈矢は呆れた。
「こんなんで喜ぶとかガキはいいな」
「お前が付き合ってくれてるからだろ」
それに対して応利が言葉を添える。確かに焦凍はアニメで見たままの光景になっていることで喜んでいるが、それだけならここまではしゃがない。普段ほとんど会話のない燈矢がやってくれているからこそ、嬉しいのだろう。
「冬美はたまに一緒に飯食ってるし、夏雄は一緒に学校行くときもある。滅多に会わない燈矢が付き合ってくれてるのが嬉しいんだよ」
「…ったく、なんで俺がこんなこと……」
応利の指摘は燈矢も理解したようだ。喜んで笑顔を見せる焦凍を見て、燈矢も口では悪態をつきつつ、ふっと小さく笑った。