目標への道−5


年が明けて、焦凍と燈矢の誕生日が連続する週になった。
昨年同様、焦凍の誕生日は日勤で帰らせてもらい、冬美も交えて3人で夕食をとり、ケーキも食べた。二人きりだった去年よりはマシだったのか、少しは焦凍も嬉しそうにしてくれていた。冷がいない状態に慣れてきている、というのもあるだろう。

そして燈矢の誕生日を翌日に控えた1月17日、応利は念のため、道場で入試に向けた実技練習の休憩中、二人で床に座りながら確認を取った。


「燈矢、明日の誕生日、やっぱケーキいらない?」

「いらねぇ、てか誕生日自体別にどうでもいい」


受験本番が近いため、燈矢も少しピリピリしている。個性の方は順調に制御・出力強化ができており、入試本番でも問題なさそうな状況だが、やはり人生の大一番だ。
そのため、誕生日というイベントごとそれ自体への関心が薄くなっている。今は練習中の息抜きも兼ねているため、応利は軽いトーンで会話を続ける。


「ま、中3だしそんなもんか。何食べたいとかある?」

「あー…応利の手作りなら何でもいいけど、強いて言えば鰤そばとか?」


食事のリクエストだけ聞くと、意外なチョイスだった。確かに燈矢はそばが好物だそうだが、魚はあまり好まなかったはず。生魚でなければ問題ないものの、そばに魚が混入することはいいのだろうか。


「普通のそばじゃなくていいのか?わざわざ魚入れるなんて珍しいじゃん」

「なんだかんだ、応利はちゃんと魚料理で完璧に生臭さ取り切ってくれるだろ。むしろ鰤は脂乗ってて好きなんだよな」


好き嫌いは許さないと言っている応利だが、それぞれの苦手な食べ物を食べやすく調理するようにはしているため、子供たちが食事を残したことはない。燈矢も、応利が作るものであれば魚に対して敏感にはならないそうだ。


「そっか、分かった。じゃあ夜は鰤そばにするか。あーぁ、でもケーキも食いたかったなぁ」

「焦凍の誕生日に食ったばっかなんだろ」

「なんぼあってもいいんだよ」


唐突に手料理を褒められた照れくささを誤魔化すために、ケーキを食べたかったと冗談でぼやけば、燈矢は呆れたようにする。
それに対して甘味はいくらあってもいい、と述べた応利に、燈矢はじっとこちらを見つめ、口を開く。


「…なんつか、甘いモン好きなの可愛いな」

「………は?」


なんの衒いもなく言ってきたため、応利はポカンとしてしまう。燈矢は自分で言って自分に驚いているようで、こちらも口元を軽く押さえていた。だが気にせず燈矢は言葉を続ける。


「ま、応利がケーキがいいってんならケーキでもいいけどな」


燈矢がなんでもないようにしているため、掘り下げるのも恥ずかしい言葉だったこともあり、応利はとりあえず何も言わないでおく。
本人も思わず言ってしまったという様子だったため、そもそも意図を尋ねたとて「そう思ったから」としか答えないだろうし、それが事実だろう。

いくら身長がギリギリ抜かれ、最近は大人びてきたとはいえ、さすがにこういう言葉を言われるのは初めてだ。普段ならキレ散らかすところだが、なぜか、燈矢に言われるのは不快にならなかった。

いったん聞かなかったことにして、応利はケーキでもいいと言い出す燈矢に答える。


「お前が生まれてきたことを喜ぶ日なんだから、お前の好きなものでいいんだよ」


そんな応利の言葉に対して、燈矢は最近増えたニヒルな笑みで試すように返す。


「へぇ、俺が作られて良かったって思うんだ」


応利の感情を試すというより、単にリアクションを試しているだけだろう。燈矢にとっては軽い気持ちのなんてことない言葉だ。だがそうであっても、応利はきちんと応じる。


「燈矢に会えてよかったって思うし、だから生まれて来てくれてよかったって思うんだろ」


炎司に対して、自分を作ってよかったと思わせるから、と述べた燈矢。父親を見限った今、もう自分の存在意義というのものに疑問を持つことはないだろう。応利とてまだその意味で燈矢を心配している、というわけではない。
それでも、受験を控えて不安定なメンタルの中で、軽い気持ちとはいえこういうことを応利に言ってきたこと自体を大切にしたかった。

そんな思いで返した応利の言葉に、さすがに燈矢は照れたようにする。


「…鰤そば、楽しみにしてる」

「おー、任せとけ」


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