目標への道−6


1月末ごろ、雄英高校の推薦入試が行われた。
あいにく応利は仕事のため燈矢を見送ることはできなかったが、さすがに緊張した面持だった。
帰ってきてから、「ベストは尽くした」と言っていたものの、一般入試に備えて勉強を続けている。

そうして2月頭、ついに合格発表の日となった。学校から郵便で通知が届くことになっており、朝から応利の方がそわそわしてしまう。自分のときより緊張していた。
9時頃、郵便がやってくる。本人確認書面のため、燈矢が自分で玄関に赴いて配達員から受け取った。

合格発表は根津校長がホログラムで出現して音声で合否を伝えるという凝ったつくりになっている。燈矢は郵便を持ってきて居間の座卓に置く。


「俺いない方がいいか?」

「ふは、緊張しすぎだろ。一緒に見ようぜ」


燈矢の方がずっと落ち着いており、一緒に見ようと言ってくれたため、応利は燈矢の隣に腰を下ろす。
そして燈矢が郵便を開くと同時に、ホログラムが起動して根津校長の映像が空中に投影される。今にして思うと、すべての受験者にきちんと映像を収録しているのだろうか、と根津校長の仕事の早さに驚きだ。


『合格発表なのさ!まずはわが校の推薦入試を受けてくれてありがとう。受験結果を発表しよう』


じっと見据える燈矢と、固唾を呑んで見守る応利。リアルタイムの映像ではないにも関わらず、根津校長に「お願いします」と言ってしまいそうになる。


『轟燈矢君、ヒーロー科推薦入試の結果は…合格!おめでとう、素晴らしい成績だったのさ!手続きの詳細は同封の資料を見て欲しい。春の入学式で会えることを楽しみにしているよ!』


結果は合格。一瞬頭を素通りしてしまったが、ついに燈矢が雄英高校への入学をつかみ取ったと理解し、応利は咄嗟に、隣に座る燈矢を抱き締めた。


「っ、燈矢!おめでとう、やったなぁ!!!」


燈矢も呼吸が一瞬止まっていたようで、大きく息を吐き出し、体の力を抜いてから、応利の背中に手を回す。


「…ん、ありがとな応利。応利のおかげでここまで来れた」

「全部お前の努力だろ。はぁ〜〜、緊張したぁ…!やべ、なんかちょっと泣きそう、自分のときでも泣かなかったのに」

「大げさだろ。でもまぁ、ずっと俺のこと見ててくれたしな」


なぜか燈矢が応利をあやすように背中を摩ってくれる。抱きしめても体が少し余ってしまう体格の差や、落ち着いた声と手つきからも、大きくなったな、と感慨深く感じる。

そこに、炎司が居間に顔を出した。出かけるついでに寄ったようで、コートを着ている。


「…合格したのか」


応利は体を離して燈矢に答えさせようとしたが、燈矢は炎司を冷たく見上げる。


「だから何?」

「そうか。地獄だぞ」

「この家よかマシだろ」


炎司はため息をついて玄関へと向かっていった。おめでとうの一言もなかったが、こうして顔を出したこと自体、結果が気になっていたことの現れだ。だが、燈矢は一貫して冷めていた。炎司の反応に興味がないのだろう。
いや、雄英高校に入れたという事実によって、父親への嫌悪や反発にも一つのけじめがついたのかもしれない。そうしたものがなくなることはないだろうが、燈矢自身の余裕ができることで、そういった負の感情も相対的に小さくなっているかもしれなかった。



そう思っていたのだが、わりとあっさり、それからすぐにその考えは覆された。
中学を卒業した3月末、燈矢が高校デビューをしたのである。

というのも、これまで燈矢は内申点を気にして学校では品行方正にしていた。ちょっと人付き合いが悪いだけだったのだ。
しかし実際にはピアスを開けたかったらしく、卒業すると同時に、ピアスを開けに度々病院に行っていた。

さらに、髪の毛もハードワックスで立たせることにしたようだ。こちらは実務的な理由も兼ねている。
燈矢は炎の個性によって、その高温が髪の毛を熱して逆立ててしまい、生まれつきの癖っ毛もあり、個性を使うと髪がぐちゃぐちゃになってしまう。そのため、髪の毛をまとめる意味でも、最初からワックスで立たせることにしたそうだ。

とはいえ、綺麗な白銀の髪をツンツンと立たせ、両耳にピアスやイヤーカフをつけ、さらに三連鼻ピアスやへそピアスまで開けているとなると、完全に不良のそれである。

どんどん不良となっていく燈矢を見て、冬美は「柄悪いけどこっちのが実際のお兄ちゃんに近いよね」と言っており、夏雄も「かっけー!」という反応だった。

しかし、玄関で鉢合わせた炎司は、久々に見た燈矢の不良姿にぎょっとしていた。


「燈矢ァ!なんだその不良のようなピアスは!!」

「うわ…」


応利は炎司と帰宅が一緒だったため、玄関で出かけようとしていた燈矢と鉢合わせた炎司の想像の範疇を出ない言葉に引いてしまう。燈矢も炎司を呆れたように見ていた。


「こういうときだけ父親ヅラすんじゃねェよ」

「っ、応利!お前も何か言ってやったらどうだ!」

「雄英は自由な校風なんで大丈夫ですよ。あ、でも燈矢、揺れるヤツはやめとけよ、怪我するから」


実際、この程度では何も言われない。生活態度のようなものは一切見ておらず、冷徹なまでに実力とヒーローにふさわしい振る舞いだけを評価する学校だ。外見については、ヒーロー活動のレピュテーションという視点での指導はあっても、生活指導はない。

ただ、揺れるタイプのピアスは危険だ。応利がそう指摘すると、燈矢は納得して素直に揺れるものだけ外した。


「まったく、どうなっとるんだ雄英は」

「エンデヴァーさんが在学中から変わってないと思いますけど…」


今更、父親のようなこと言って干渉するな、という苛立ちがあった燈矢ですら、典型的な態度を取る炎司に呆れが勝っていた。応利も同じだ。
ただ、応利は意外にも思っていた。燈矢は炎司になんの興味も関心も示していないが、炎司はこうして注意するくらいには、燈矢のことを見ているようだった。二人の感情が同じであったなら、炎司は燈矢を無視して玄関を上がっていたはずだ。
ちゃんと推薦入試に合格する実力を身に着けた、その事実を、炎司なりに受け止めているのかもしれない。


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