目標への道−7
新年度となり、燈矢は雄英高校に入学。冬美は中学3年生、夏雄は小学5年生、そして焦凍は小学2年生となった。
春が終わればあっという間に体育祭の時期となる。応利が卒業していた去年は観戦に行かなかったが、今回は燈矢が出るため、冬美と夏雄は観戦に行く気満々である。
応利も観戦する側になってみたかったのと、燈矢の戦いを見ておきたかったため、炎司に休みをもらい、冬美と夏雄を連れて2年ぶりの母校へとやってきた。
ちなみに、炎司は焦凍と自宅のテレビで観戦するとのことだ。やはり炎司は、ここに来て燈矢への関心を持っている。再び期待しているとか、かつての延長だとか、そういうことではないだろう。息子として、ただ心配なだけではないだろうか。
生徒の家族は家族席のチケットをもらえるため、熾烈なチケット争奪戦となる一般席と違って余裕をもって入れる。
冬美と夏雄と並んで客席につくと、上から見下ろす競技場が新鮮に感じる。生徒席から見ていた景色よりも近くにあるのに、生徒ではないという立場の違いだけで遠く感じられてしまった。
そうして1年生の部が開催され、燈矢はヒーロー科A組として参加、そのイケメンさに周囲の女性客がざわついていた。
目立つ燈矢は個性も目立ち、予選2種目をあっという間にトップで勝ち抜けてしまった。
「燈矢兄すごいね!」
「燈矢兄、あんなすごい個性使えたんだ…」
純粋にはしゃぐ夏雄と、初めてちゃんと見た兄の個性に驚く冬美。
容姿端麗でクールな振る舞い、そして青い炎というセンセーショナルな個性で1位通過という成績もあって、すでにこの会場の注目は燈矢に集中していた。
『これにて午前の部を終了します。レクリエーションを挟んで1時間に午後の部を再開します』
「昼食べに行こうか」
「うん!」
アナウンスが流れたため、応利は立ち上がる。冬美たちも頷いて、3人で連れ立って会場の外に出る。
学生時代はあまり出店などを楽しむ予定もなかったため、夏祭りのようにたくさんの店が並ぶ様子は気分が上がる。冬美たちもどれにしようかと迷っていた。
するとそこに、聞きなれた声がかけられる。
「応利、」
「あれ、燈矢。お疲れ様、1位通過おめでと」
やってきたのは燈矢だった。生徒にはちゃんと昼食が用意されているはずであり、どうやら探しに来てくれたようだ。
「あ、燈矢兄!青い炎すごかった!」
「1位なんてすごいね」
夏雄ははしゃいで燈矢に抱き着き、冬美も尊敬の目を向ける。弟・妹にそうされるのは燈矢も嬉しかったようで微笑んだ。
「ん、ありがとな。応利は?どう思った?」
「張り合いある相手ばっかで楽しそうだったな。よく相手のこと見て立ち回れてたと思うぞ」
「まぁな。特にヒーロー科のヤツは容赦ねェし、ちょっとでも油断すりゃ足元掬われる」
「その自覚があるなら大丈夫だろ。午後も頑張れよ」
「おー」
ただ会いに来てくれただけのようで、燈矢は手を振る冬美たちに手を振り返してから競技場内へと戻っていった。
「冬美、夏雄、好きなの買ってきてくれ。俺はそこのベンチで待ってるから」
「はーい。行こ、夏」
「冬姉、俺焼きそばがいい!」
「はいはい」
お金を渡して冬美と夏雄を買いに行かせる。席を確保しておかないと、子供二人を連れて遠くまで行くのは面倒だ。
ベンチを確保して座ると、そこに体操着の生徒たちがやってきた。先ほど予選を戦っていた、ヒーロー科A組の生徒たちだ。
「あの、OBの圧気先輩、ヒーロー・パスカルですよね?」
「そうだよ。A組の子たちだよね」
「はい!さっき轟と話してるの見て、声かけちゃいました、すみません!」
女子の割合は相対的に低いのがヒーロー科だが、応利に声をかけてきた集団は男女半々くらいだ。活発そうな男子を先頭にわらわらと集まってくる。
「いいよ別に。どうかした?」
「あの、轟とはどういう関係なんですか…?」
どうやら先ほど燈矢と話しているのを見て気になったらしい。確かに、初めて高校で燈矢と出会ったのであれば、応利が居候していることは知らないだろう。
「俺実はエンデヴァーさんの家、要は燈矢の家で居候してるんだよ。あいつとも昔からの付き合いでさ」
「なるほど…!いや、あいつが笑ってんの初めて見たんで、しかも相手が体育祭3年連続総合優勝のあのパスカルさんだから、もういろいろビックリで」
「え、あいつクラスでどんな感じ?」
「言動が不良なのに素行と成績は良いイケメン、って感じっす」
男子たちの批評を聞いて応利は苦笑する。想像に難くない。
話を聞く限り、やはり燈矢は、ここでは周囲を見下す癖は鳴りを潜めているようだ。先ほども張り合いのある相手ばかりで楽しそうにしていたことから、切磋琢磨できるクラスメイトたちのおかげで充実しているのだろう。
とはいえ、大本の性格は変わらない。決して人付き合いの良い人間ではないし、態度が悪いのはその通りだ。
「そっか。まぁ、悪いヤツじゃねぇから、仲良くしてやってほしい」
「それはもちろん!」
実力だけでなく性格も優しい子たちばかりのようだ。
今はまだ、燈矢にはプロヒーローの子供であり応利のサポートがあるというアドバンテージのおかげで、周囲の生徒より頭ひとつ抜き出た成績を出せている。だがすぐにその差は詰められていくだろう。入学することはゴールではない。炎司は「地獄だぞ」と言ったが、それもあながち間違ってはいなかった。
ここからが、燈矢にとって苦しい時期になっていくだろう。