目標への道−8
燈矢は無事、体育祭で総合優勝を勝ち取った。本戦の1対1の戦いでは圧倒的な個性の力によって他の追随を許さず、少し自分を見ているような気分でもあった。
例年、体育祭の直後に各ヒーロー事務所は職場体験のオファーを出す。特に強い個性や良い成績の生徒にはそれが集中する。
応利が燈矢と出会ったのも、炎司が職場体験を悪用して応利に燈矢を説得させようとしたからだったが、今や燈矢が職場体験をする側になっている。
どこを選ぶのだろうか、と思いつつ、休み明けの仕事を事務所で行っていると、炎司に呼び出された。執務室に入ると、書類を一式渡される。
「今年は職場体験を受け入れることにした」
「え、俺以来ですよね」
「そもそも、お前以外に職場体験を受け入れたことはない」
後進の育成というものに興味がなく、自身の目指すもののみを見定めるヒーロー・エンデヴァーは、これまで職場体験やインターンなどを行ったことがなかった。新卒採用を行わない企業のようなものだ。即戦力だけを採用する。そのため、SKの給料も相場より高い。
「誰を受け入れるんです…か…って、え、本当ですか」
なんと、受け入れる学生は燈矢だった。書類の一番上は燈矢の応募書類であり、ほかは職場体験で使用する誓約書などの各手続き書面だ。
炎司が燈矢にオファーを出し、そして燈矢もそれを受け入れた、ということだ。
どちらも信じがたく、応利は呆然とする。
「ヒーローの道に足を踏み入れてしまったからには、その過酷さを身をもって分からせてやる必要がある。あいつの性根も含めて叩きなおしてやる」
「…そうですか、分かりました。これを渡されたということは、俺が面倒を見ればいいということですね」
「あぁ。現場に出るときは俺とともにお前らも帯同してもらう」
「え、俺のときはSK任せでしたよね」
「……炎系の個性としてヤツを指導する必要がある」
「へぇ〜、俺はプライベートの問題に巻き込ませるためだけに連れてきてSK任せにしてたくせに、自分の息子はちゃんとヒーローとして一緒に行動してあげるんですね〜」
燈矢の面倒を見る、というのはこの流れであれば理解できたが、職場体験の方針を聞いてさすがにジト目を向ける。応利のときは「勝手にしろ」とばかりにSKにすべて任せきりにしていたくせに、燈矢はちゃんと連れ出すらしい。
嫌味っぽく言えば、炎司は言葉に詰まってから、無言で立ち上がり応利のそばまで来る。怒っているわけではないが、こちらを見下ろす視線に戸惑う。
すると、炎司はおもむろに応利の頭を撫でた。
「え、ちょ、エンデヴァーさん…?」
「…だからお前のことは、今は特別扱いをしているだろう。お前の職場体験のときのことは、正直に申し訳なく思っている。そして、それでも俺についてきてくれていることを、感謝している」
珍しくストレートな言い方だ。普段、言葉を尽くさないくせに、いきなりこういうことを言い出すのはずるい。
これも燈矢の実力を認めつつあることの証左だろうか。丸くなった、と言ってもいい。
特別扱いをされている自覚は、実際ある。ほかのSKからも、「やっぱ可愛がられてるよな。実際可愛いしな」などと言われていた。後半は意味が分からないが、炎司には息子へのそれとまではいかないものの、身内として扱われているのは確かだ。
「…、なんだかんだ、エンデヴァーさんが俺のこと気にかけてくださってるの、ちゃんと分かってます。すみません、燈矢のこと、ちゃんと向き合ってくれてるのが嬉しかったんです。俺と扱いが違うことは、むしろ嬉しいことだったんです」
「……お前はいつも、子供らのことを想ってくれているな」
「俺にとっても大切なので」
今更父親が気にかけたところで、燈矢は何も思わないだろう。だが、応利にはそれでも、炎司の燈矢への態度が変わりつつあることが、本当に嬉しかったのだ。