目標への道−9


燈矢は初めてエンデヴァー事務所にやってきた。
今日から職場体験が始まることになっており、父親の職場に来るのはこれが初めてのことだった。

ここに来ること、エンデヴァー事務所の職場体験を受けることに、葛藤がなかったと言えば嘘になる。体育祭後、自分に炎司からスカウトが来ていたこと自体も驚いたが、それをそこまで不愉快に思わなかった自分にも驚いた。
そして、いろいろなことを天秤にかけ、ここへ来ることを決めた。

理由は簡単だ。エンデヴァーは、炎系個性のヒーローの中で依然として最強である。実力も、解決数も、事務所の規模も、どれをとっても炎系の最高峰だった。
体育祭を経て、燈矢は自分に足りないものを理解している。様々な個性で極めて高い実力を持ったクラスメイトたちと対等に渡り合い、これからもトップの成績を維持してプロになるためには、とにかく炎の使い方を多様化する必要があった。

結局のところ、個性の強さとは個性の使い方だ。使い方ひとつで強者にも弱者にもなる。

その意味で、炎系の個性として、プロヒーロー・エンデヴァーの実力を近くで見ることには大きな意義があった。
それが、葛藤を押しのけてここへ来ると決めた理由だった。

そうして事務所へやってくると、すぐに扉が開き、中から応利が出てくる。
すでにヒーロースーツを着ており、燈矢を見て微笑んだ。


「よく来たな、燈矢。ヒーロー名、名前と同じなんだって?」

「呼びやすくていいだろ」

「そりゃね」


いつものように会話をするが、ひとたび事務所に入れば、応利が広いオフィスで働く大勢のSKの一員なのだと実感された。応利はここでは大人であり、働く者として立っている。


「そこが更衣室だから、先にコスチュームに着替えてきて」

「分かった」


燈矢は指示された通りに更衣室に入る。誰もいない広い部屋で、空いているロッカーを開いて通学カバンとスーツのアタッシュケースを入れる。
手早く着替えると、鏡に映った自分の姿を確認する。

燈矢のヒーロースーツは、全体的にすらっとしたスマートな見た目をしている。
アウターは黒いロングコートであり、袖は肌が出せるよう肘丈くらいになっている。コートは高度な耐火性を持っており、自分の炎が体を焼かないように纏っている。背中には薄型のラジエーターが組み込まれ、体を冷やす役割もあった。
インナーはエンデヴァーのスーツに似ており、体のラインにぴったり沿って、炎がスーツの内側に漏れ出さないようになっている。耐火性があるのはもちろんのこと、デザインの青いラインに沿って排熱材もついており、体に籠る熱を体外に排出する機能を持っている。
ベルトには応急処置の道具などが入っているポーチがついているほか、下半身はズボン型になっており、冷却材生地によって太い血管がある足を冷やせる。足元はロングブーツであり、ズボンの裾をブーツで締めて炎が内側に入らないようにしつつ、ブーツの底に空いた穴から炎を射出して飛ぶことができる。
手首にも同じ仕組みのガントレットが装着されており、散弾銃のように密度の高い炎を射出する。

問題ないことを確認してオフィスに戻ると、SKたちがなぜか感心したようにした。
「テレビで見たよりイケメンだ」「パスカル並みのイケメンがほかにいるとは」というようなもので、容姿を褒められているようだった。いや、褒めるというよりは「良いモンみた」くらいのものか。


「じゃあまずは基本的なことからレクチャーしてくから」


そうした声を気にせず、応利は説明を開始する。資料を渡され、施設を案内されるが、コスチュームをまとって並んで歩いているだけで、同じ舞台にいる、と実感されて、気分が高揚した。

応利のヒーロースーツはよりシンプルであり、七分丈のいかつい白のジャケットに黒のインナーと青いベルト、黒いズボンにブーツであり、ちょっといかつい私服に見えないこともなかった。
しかし、あちこちについたポケットにはスーパーボールに似た小さなボールが入っており、それを投げて地面に当て応力を上げることで地面を爆破する。
ジャケットの二の腕部分やズボンの太もも部分にもベルトが巻かれているが、これは圧力の個性を使いすぎることで血圧が上がらないようにするためのものだ。
手には黒いフィンガーレスの手袋がはめられ、露出した腕と指先によって個性を発動している。

こうして間近で「ヒーロー・パスカル」としての姿を見られるだけで痺れる。そのうえ、同じ場所でしばらく働くことすらできるのだ。応利が独立していれば間違いなくそちらを選んだのだが、応利がいるというだけでもエンデヴァー事務所を選んだ甲斐があった。


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