目標への道−10
初日はパトロールくらいで終わり、ほかのSKにトレーニングルームで筋トレを教えてもらってから退勤時間となる。
燈矢は先に上がらせてもらい、制服に着替える前にシャワー室で軽くシャワーを浴びる。
早く現場に出たいところだが、まだ仮免も持っていないため、現場に出たとて個性を使って戦うことは認められない。
見るだけでも価値があるのだ、明日が待ち遠しい。
そう思いながらシャワーを終えて脱衣所で体を拭いていると、応利が入ってきた。
「あれ、燈矢まだ帰ってなかったのか」
「あぁ、これから帰る。応利も上がりか?」
「おー。車出すから一緒に帰ろう」
最近マイカーを買って浮かれている応利は、何かと運転したがる。ただその腕は確かで、応利の運転で何度か車に乗ったが、乗り物酔いしやすい燈矢でもほとんど酔うことはない。
礼を言おうとして隣を見た、そのとき、応利がジャケットを脱いでインナーの黒いタンクトップも脱いだ。脱衣所なのだから当然なのだが、半裸になっているのを見て、途端に心臓がドッと激しく音を立てる。
咄嗟に視線を逸らしたが、そういえば応利の裸を見るのはこれが初めてだ。銭湯や温泉に行ったことがあるわけでもない、こういう機会はそもそもなかった。
白い肌に均整の取れた体だった。直視しすぎるのはまずい、と思っていたのだが、応利の方からこちらに近づく。
「っ、応利?」
「やっぱあれだな、ワックスで髪立ててるのも格好いいけど、普段のふわふわしてんのも好きだよ」
そう言って、ワックスを洗い流して元の癖っ毛に戻った燈矢の白い髪を、応利はなんでもないように触れて撫でてきた。
目の前に半裸の応利が迫り、その手が優しく自分の頭を撫でている。
これまで見てきた応利の姿と比べるとあまりに倒錯的すぎて、燈矢は叫ばなかった自分を褒めてやりたいくらいだった。
「ッ、やっぱ、買い物しなきゃなんねぇから、先帰っててくれ」
「そうか?分かった」
燈矢は慌てて服を着ると、すぐに脱衣所を飛び出した。
危うく下半身が反応するところだった。というか、むしろ半分反応している。バレる前に出てこられたと思うが、あと少しでも遅ければどうなっていたか分からない。
燈矢は爽やかな5月の夕暮れのもと、ビルを飛び出して走る。
「クッソ、やっぱ俺あいつのこと…ッ!」
うすうす気づいていたことだった。いや、応利に向ける感情が大きく、重すぎて、その名前が見えていなかっただけだった。
応利のことが好きだ。
好きという言葉では足りないくらい、この手でめちゃくちゃに抱いてしまいたいような、そんなドロドロとした感情だ。
そうなるのも当然だろうと、誰に聞かせるでもないのに言い訳をしてしまう。
自分を見てくれて、守ってくれて、導いてくれて、寄り添ってくれて、信じてくれた。だからここまで来られた。今こうして生きていることですら、応利のおかげなのだ。
応利がいなければ呼吸もままならないような、燈矢にとって生命維持装置にも似た存在だ。
好き、愛しい、大切、大事、執着、依存、どれも正しくどれも足りない。
自覚してしまえばしっくり来てしまい、すとんと自分の中で収まるような感覚だった。
同時に、それは自覚して数分も経っていないというのに、すでに大きくなろうとしていた。このままでは、燈矢は応利に向ける感情に自分で押しつぶされてしまうのではないだろうか。
それほどまでに、このあまりに大きな感情が、単なる好意や性欲だけではなく、人に向けるには重すぎるものだということも、同時に理解していた。