それぞれの想い−1


燈矢と出会ってから4年、高校生のうちから大人のような立ち回りをする羽目になっていた応利だったが、誕生日を迎えた10月16日、ついに20歳となった。
これで名実ともに大人の仲間入りであり、興味があるわけではないが酒もたばこも解禁される。

ただ、応利は広く誕生日を公表しているわけでもないため、事務所では普段通りに過ごしており、親や友人たちからの祝いのメッセージだけを受け取っている。
また、子供たちも朝からおめでとう、と言ってくれていた。特に拘りがあるわけでもなく、夕方にもなれば誕生日であったことを忘れている始末だった。

しかし帰宅して家政婦が用意した食事を終え、冬美は課題をやるため自室に、夏雄は風呂に入り、居間には食器の片づけを終えた応利と燈矢の二人になったときだった。


「応利、ちょっとここで待ってろ」

「え、分かった」


いったい何事かと思って、とりあえず座椅子に留まる。お茶を飲んで待っていると、わりとすぐに燈矢が戻ってきた。
手にはケーキ屋の箱があり、もう片方の手には紅茶の入ったマグカップがある。


「今日、誕生日だろ」

「…買ってきてくれたのか」


驚いて呆然としてしまう。燈矢は座卓に箱とカップを置き、箱を開いて中身を取り出す。
出てきたのは、非常に美味しそうなモンブランだった。この時期が旬のケーキであるのと同時に、応利が最も好きなスイーツだ。しかもそれなりに良い値段がするものである。


「えっ、モンブランだ。俺一番好きなんだよ」

「知ってる。ホールケーキと迷ったンだけど、まァ、どうせクリスマスで食うしな」


どうやら燈矢は応利の好物であることを知っていて買ってきてくれたらしい。燈矢がこういうことをしているのは初めて見たが、やはり少し照れくさいようで、視線を逸らされる。


「…すげぇ嬉しい、まさかこうやって祝ってもらえると思ってなかったから」

「お前はもっと俺らに求めてもいいと思うけどな。応利が俺ンときに、生まれてきてくれたことを祝うっつってただろ」


今年の燈矢の誕生日に言ったことだ。ただ重ねる年齢を数える行事ではなく、節目に出会えたことを喜ぶものだという意味を、正確に汲み取ったうえで、応利にも返してくれたのだ。

出会ったばかりのころは、父親に認められることばかりを見ていた少年だったのに、今やこうして人のことを見て考えられるようになった。
初めてのヒーロー科夏合宿も経て、急に逞しくなったこともあって、本当に成長したな、と感慨深かった。




一方の燈矢は、応利が喜んでくれたことにとりあえず安堵した。自分で稼いだ金でもない、立派なホールケーキを買えるほどの余裕が財布にはなく、一人分を買うのが精いっぱいだったため、冬美たちがいない隙をついた。

他人の好物など覚えていない燈矢だが、応利がスイーツの中でもモンブランが好き、というのは正確に覚えていた。何気ない会話だったため、応利はそれを燈矢に伝えていることすら記憶していないだろう。応利のことならなんでも覚えている自分に自分で引いてしまう。


「まさかこんなことしてくれるとは、成長したなぁ、ほんと。マジで嬉しい、ありがとな」

「…おー」


とはいえ、応利の喜びは依然として子供の成長を喜ぶそれに近しい。そうなることが分かっていた。
それが悔しくないと言ったら嘘になるが、職場体験で改めて、4歳の差があまりに大きいことを理解していた。
まずは自分が大人になって対等にならなければ意識してもらえない。今は子ども扱いされても我慢するべきだ。

そう思っていると、応利は燈矢の頭に手を伸ばし、そして寸前でひっこめた。これまで無遠慮に燈矢の癖のある髪を撫でまわしていたはずなのにどうしたのか。


「…なんだよ」

「あーいや、悪い。前に職場体験のときに嫌がられたのに懲りてねぇなって反省してたとこ」


職場体験で嫌がったことなどあったか、と記憶をたどると、あの脱衣所でのことだと思い至る。あれは単に、半裸で近づいてきた応利に自分の息子が反応しそうになったからというだけであり、撫でられるのが嫌だったわけではない。何なら、嫌に思ったことなど一度もなかった。
だがそれは違う、と言ってしまうと、では何だったのかという話になってくる。

仕方なく、燈矢は応利の肩に頭突きするように頭を乗せた。


「…別に、気にしてねェ」

「はは、そっか」


応利は小さく笑い、燈矢の頭を改めて撫でる。その優しい手つきを嫌いになれるわけがなかった。思えば、出会ったばかりのころ、炎司に顧みられない日々の中でこうやって応利に撫でられることが嬉しかった。

それに、燈矢が大人になって対等な立場となればこういう機会も減る。それなら、これはこれで今だけ、と楽しむ方向にあっさりとシフトした。


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