それぞれの想い−3
年が明けて1月11日、成人の日を翌日に控えた日曜日、応利は休日出勤のため事務所にやってきたが、事務所に入るなりSKたちが口々に応利のことを祝ってくれた。明日は成人式のため、実家に帰ることになっており休みをもらっている。
そして終業間際、炎司に呼び出された応利は執務室に入ると、デスクにいた炎司が何やら箱を持って応利の元まで立ち上がってやってくる。
「成人の祝いだ。受け取れ」
「え、いいんですか」
まさか炎司からそのように祝いの品をもらえるとは思わず、目を丸くする。受け取った箱はずっしりとしており、表面を見ると高そうな日本酒の銘柄が書いてあった。
「父親と晩酌でもしてやるといい」
その言葉に、応利は喉元まで出かかった言葉を押しとどめた。
それは、本当は炎司が燈矢としたかったことなのではないか。
だが炎司はすでに、ヒーローとして燈矢に向き合っている。燈矢を見ないと決めた代わりに、親としての喜びもすべて捨てたのだ。そんな炎司に、とても言えたことではなかった。
「…ありがとうございます、父は酒飲みなので喜びます。今晩にでも開けさせてもらいます」
代わりにただお礼を述べた。炎司も一つ頷くだけでデスクに戻るが、思い出したように会話を続けた。
「そういえば、お前は独立は考えていないのか」
「ヒーローとして独立して事務所を構える、ってことですよね」
「あぁ。同期からはそろそろ独立組も出ているんじゃないのか」
炎司から切り出されたのは、独立しないのかという確認だった。確かに20歳の節目であり、同じ学年だった者たちからは独立した者も出てきている。
実力から言えば、間違いなく応利は独立しても問題ない水準にある。元クラスメイトたちからも、独立しないのかよく聞かれていた。
「家のことを気にしているなら、そういうことは考えなくていい。お前自身の人生だ、自分で決めろ。仮に独立しても、引き続き住んでもらって構わん」
実際、子供たちの心配ということもある。引き続き居候していいと言ってもらってはいるが、独立ヒーローとなれば仕事量も膨大で、家事の手伝いはできなくなってしまう。
だが、それ以上に応利には明確な理由と目的があった。
「個性の性質柄、悪質で大きな事件で力を発揮しやすいので、こういう大手の事務所で大きい事件の解決に関わりたい、ってのが現状の目的です。なので、もう少しSKとしてここで働かせてもらえると助かります」
「…そうか。それも道理ではあるな。なら、HN(ヒーローネットワーク)でもお前の指名が増えていることもある、お前をトップにしてSKを率いて単独派遣する機会を増やそう」
SKにそこまでさせることは稀だ。そもそも、それほど個性の性質が違うヒーローがSKになることもあまりない。実質的に、エンデヴァー事務所の中に小さな事務所が別にあるかのような形になってしまう。
だが応利の事件解決数が増えれば事務所の成績にも貢献する。応利としても、ぽっと出の独立ヒーローよりエンデヴァーのSKの方が機会は多く、そこで経験を積めば、独立してもすぐ仕事にまい進できる。
そこに、執務室の扉がノックされた。
「エンデヴァーさん、バーニンです」
「ちょうどいい、入れ」
「失礼します!」
執務室に入ってきたのは、一度だけ事務所で見かけた、緑の燃える髪の溌溂とした少女だった。炎系の個性であることは、文字通り火を見るよりも明らかである。
「紹介する。この4月から入ることになったバーニンだ。単独派遣で随伴させることもあるだろう」
「うっす!上路萌、ヒーロー名バーニンです!よろしくお願いしまァす!!」
「あ、あぁ、ここのSKのパスカルだ、よろしく」
珍しく高校卒業と同時に採用したSKであるようで、年齢は18歳だそうだ。ギラギラとした目つきは、確かにほかのSK同様、この事務所らしい野心的な様子だった。応利だけが異質と言える。
炎系の個性のSKは基本的にチームを組んでおり、サポート系の個性は各チームもしくは炎司への支援を行う。サポートでもないのに炎系の個性ではないのは応利くらいだ。
「SKを雇う、というのもヒーローとして重要な経験だ。独立のことは常に可能性を考えておけ」
「はい、分かりました」
やはりなんだかんだ、炎司は応利のことをよく気にかけてくれる。年齢が近いバーニンを採用した理由の一つは、応利の経験のためという側面もあるのだろう。
確かにそろそろ、今後の人生のロードマップをきちんと考えなければならない。