それぞれの想い−4
11日の夜に実家に戻り、炎司にもらった日本酒で父親と酒を軽く酌み交わした翌日、12日は成人式に参加した。
中学時代の友人たちと再会するのは卒業以来のことだったが、案の定、たくさんの旧友たちに囲まれてしまった。体育祭で3年連続優勝ということだけでなく、ヒーローとしても実績を積み上げているところであるため、完全に有名人扱いだ。
中にはほとんど話したこともない者もいたため、少し困ってしまった。
その中でも特に仲が良かった者たちと同窓会を兼ねた二次会で酒を飲んだが、東京の現役大学生たちの飲酒ペースにはさすがについていけず、軽く酔ってしまった。
応利のアルコール耐性は一般的なものであるようで、泥酔というほどではない。
女子には三次会に猛烈に誘われてしまったものの、今晩は凝山に戻って明日の出勤に備えなければならない。
丁重にお断りして、新幹線で東京から帰宅したころにはある程度酒も抜けたが、疲労もあってアルコールはそれなりに回っており、帰宅するなりリビングのソファーにぐったりと座り込んだ。
時刻は20時過ぎ、外からは強い冬の風が木々を揺らす音が聞こえてくる。スーツのネクタイを緩めながら、早く着替えないと、と思うのだが、起き上がる気力がない。初めての酒酔いのため、思いのほか体に来ていた。
するとそこに燈矢がやってきた。応利の右隣に腰を下ろし、こちらを見やる。
「大丈夫かよ」
「へーき…酒臭くねぇ?」
「いや、わりと匂わねェな」
結構しんどいな、と思って、つい、応利は隣の燈矢の肩にもたれ頭を預けた。
来週には16歳になるが、学年としては今年で高校2年に上がる。がっしりしてきた体は難なく応利を支えてくれていて、より深くもたれた。
文句の一つでも言われると思ったが、燈矢は静かだ。冬の静けさが満ちる屋敷の中の空気に合わせているかのようだ。
嫌がっていないだろうか、と思ってちらりと燈矢を見上げた、そのとき。
燈矢は一瞬の隙をつくように、応利の顔に自身の顔を近づけた。
そして、唇に柔らかいものが触れる。端正な顔立ちが目の前に迫り、髪と同じ白いまつ毛と炎と同じ青い瞳が至近距離に見えた。
何が起きたのか理解しきる前に、燈矢は顔を離す。その綺麗な瞳と目が合った瞬間、応利はすべて理解し、ばっと体を起こして距離をとる。
「な、な、お前、なにして…ッ?!」
「お、いい反応じゃねェか。やっぱ押していくか」
キスされた。燈矢に。その事実が頭をぐるぐると支配する。
酔いも冷める急展開に意識が覚醒するが、同時に、突然のことながら顔に熱が集まっていくのを感じる。
まさか燈矢とキスをすることになるとは思っていなかったし、それを燈矢が意図的に仕掛けてきたことも驚きだ。嫌がらせやいたずらでこういうことをするヤツではない。
「なっ、なんで俺にそんな、」
「あんただからだろ。今は俺のこと弟かなんかだと思ってるかもしれねェけど、これからは意識しろよ」
ニヤリと笑った燈矢の顔は、これまで見たことのない大人っぽいもので、少年のそれではなく男のそれだった。
燈矢は言いたいことだけ言ってリビングを出ていった。再び応利1人となり、外からの風の音だけが残る。
キスをしてきて、意識しろ、と言ってきた。
さすがにその意味が分からないような鈍感ではない。鈍感ではないが、確信も持てない。
絶望の中で出会った応利に、多感な時期も一緒に過ごしたことで勘違いを抱いているのではないか、という可能性も捨てきれない。
だがあの様子は、勘違いというにはあまりに自信に満ちていた。応利への想いを自覚して、自分の中に言語化して落とし込んでいないと、あの言動にはならないだろう。
「あいつ…マジか……」
つい顔を押さえる。目を閉じると、至近距離で見たあの綺麗な顔立ちと唇の感触を思い出してしまいそうだった。
顔の熱は、もはや酔いのせいとは言えなかった。