それぞれの想い−6
告白紛いのことを言ってきて、「その方が意識するだろ」などとのたまった燈矢は、その後もふとした瞬間に意識させてくる行動をとった。
ひとつひとつはなんてことない。すれ違い様に髪を撫でてきたり、家の中で行先が同じだったときに腰を抱いてきたり、といったようなものだ。取るに足らないことばかりであるため、いちいち応利も指摘していられない。
さらに燈矢は、2月14日、バレンタインデーに応利にチョコを渡してきた。
「告白じゃねェから」と言いながら渡されたものは応利が好きなブランドのもので、応利が好きであることを知って用意したものらしい。
そうした燈矢の攻勢によって、まんまと応利の頭は燈矢のことが支配していた。仕事中や料理中などを除けば、ずっと燈矢のことを考えさせられている。
4個下の高校生にしてやられる悔しさもあるにはあるが、燈矢はもう守るべき子供ではない。まだまだ半人前ではあるものの、燈矢が望む「対等」は、燈矢が思っているよりもずっと近いところに来ている。
そうして3月14日、ホワイトデーになったため、応利は少しお高いドーナツを買ってきた。
1人部屋となっている燈矢の部屋にやってきて入室の許可をもらってから襖を開ける。勉強机に向かっていた燈矢に白い箱を突き出した。
「ほら燈矢、バレンタインのお返し」
「…マジか。真面目だよな、あんた」
燈矢は立ち上がって応利から箱を受け取る。机に置いて箱を開けると、中身を見て目をぱちぱちとさせる。
「…ドーナツ?ホワイトデーに?」
「いや、なんつか、クッキーとかマカロンってお返しとして意味あるじゃん。変にそういうの渡すと気にさせるかなって」
「マジで真面目だし律儀だな、そんなん気にしてねェのに。つか意味とかあンのか」
「チッ、やっぱそっちのパターンか…」
燈矢がホワイトデーのお返しの意味を把握しているかどうか、応利はかなり悩んだ。知っていそうでもあり、興味なさそうでもあり、今回どちらなのか分からなかったのだ。そのため、特にそういった意味を持たないドーナツにしたというわけだ。
「ま、クッキーとかマカロンとか、そういう甘いモン別にそんな好きじゃないだろ、お前。そういう意味でも、結局こういうチョイスになったと思う」
とはいえ、燈矢の好みを考えれば同じようなものを選んだだろう。フィナンシェやマドレーヌなど焼き菓子あたりになっていたのではないか。
燈矢は一つを掴んで口に運ぶ。ちゃんと手が汚れないようナプキンで持っているあたり、育ちの良さが窺える。だが豪快に食べたため、一気に円は3分の2ほどになった。
「お、甘くねェやつだ。こんなことまで考えたんだな」
そう言って燈矢は3口で食べて終えてしまった。まだ2個残っているため、後ほど食べるだろう。
それにしても、誰のせいでここまで思慮を巡らせたと思っているのか、と文句を言いたくなる。
「誰のせいだ誰の。お前のこと、ずっと考えさせられてんだからな」
「…へェ、そりゃ俺のせいだな」
文句を言いつつこれは恥ずかしいことを言ったかもしれない、と言ってから後悔していると、燈矢は案の定、ニヤリとしてこちらに近づく。
何をする気かと身構えたが、燈矢はただ応利を正面から抱きしめた。ほぼ同じ身長のため、燈矢は頭を応利の肩に乗せる。
「…あー、今すぐ俺のにしてぇ」
そして飛び出したそんな言葉に、さすがに応利の顔にも熱が集まる。意外と燈矢は感情表現がドストレートだ。もともと直情型だからだろうか。
「それは告白か?」
「ちげェよ。もうちょい待って」
「はいはい」
燈矢は自分のために告白を控えている。もうほぼしているのと同じだが、関係性をまだ変えるつもりはないということだ。
同時にこれは応利への猶予でもある。燈矢に対する感情がまだ定まっていない応利が、いざ告白されたときにどう返すのか、それを考えるための時間でもあった。