それぞれの想い−8
体育祭当日、去年同様に応利は冬美と夏雄を連れて観戦にやってきた。
午前中に行われた予選では、燈矢は上位ではあるが1位ではなかった。落ち着いて順調に行動できているようではあったが、焦りがまったくない、というわけでもない。
そして本戦が始まると、いよいよ燈矢の表情に焦りがあからさまに見え始めた。やはり2年生の部ともなると各生徒の個性の使い方も工夫されており、見ごたえがある試合ばかりだ。お互いに手の内も分かっていることから、意表を突くことも多い1年生の部に比べれば、正攻法で正面衝突という試合が多い。
昨年の試合を覚えていたほかの生徒の成長も目覚ましく感心してしまう。世の人々はこうやって体育祭を楽しんでいるのだろう。
冬美と夏雄も、苦戦が目立つ燈矢の試合にハラハラとしているようだった。
そうしてついに決勝戦となった。なんとか勝ち進んだ燈矢に立ちはだかるのは、相性があまり良くない飛行型の個性を持った生徒だった。翼を持っており、その翼による飛行や突風が持ち味だ。
地上戦にさせてくれない相手に、炎を出し続ける燈矢は表情を歪める。そろそろ火傷となり痛みが生じるころだろう。指向性のある炎で相手を狙っても風でかき消され、近づこうにも俊敏に空中を動かれ思うように近づけない。
一方、相手も迂闊に近づくわけにはいかないため、膠着状態だった。
このまま焦って個性を使えば相手の思うつぼだ。火力を出し過ぎて双方に大きなダメージが出る可能性もある。
「…ちょっと前行ってくる、ここにいてくれ」
「え、うん、わかった」
冬美にそう言い残して、応利は急いで最前列まで走った。観客席の最下層、最もグラウンドに近いところまで降りて燈矢を見つめた。
青い炎を両手に纏って相手を睨みつけていた燈矢は、ふと、こちらに気づいた。
さすがに声を上げて呼ぶわけにはいかないため無言で見つめていたのだが、離れた場所にる応利を、正確に燈矢は見つけ出した。
応利を見て燈矢は一瞬目を丸くしてから、すぐ表情を落ち着かせる。滾るように漏れ出していた炎が消え、空中を飛ぶ相手に視線を向けた。
直後、足から一気に炎を噴き出して、上空へと高くジャンプした。観客たちの目も上へと向かう。飛行していた相手よりもやや高い位置まで一気に跳躍すると、真上から炎を浴びせた。
すぐに相手は翼から風を出して炎を上空へかき消そうとしたが、その直前に燈矢は自分から炎を消し、今度は垂直に落下するように足から炎を噴き出した。
ともすれば地面に突っ込みかねないが、その速度ゆえに相手の回避は間に合わない。上空に向けて翼を動かし、次に滞空を維持するため下方に翼を向けたため、一瞬で距離を詰める燈矢に再度上空への風を起こそうとするには、翼を動かす時間的余裕がなかったのだ。
再び手から青い炎を出した燈矢の拳が迫り、相手は咄嗟にのけぞるように空中で無理な姿勢を取る。
それが致命的な隙となった。
燈矢は右足から炎を噴き出し、その場で炎の推進力を使って1回転する。その足は踵落としとなって相手の頭を直撃し、気を失った。
その場で審判のヒーローが続行不能を制限、相手の生徒は土系個性のヒーロー教師が土の滑り台を形成して受け止め、燈矢は自分で着地した。
『決勝戦、勝者は轟燈矢!!』
そのアナウンスが響いた瞬間、わっと歓声が上がる。応利もほっと安堵して体が弛緩する。
その場でフィールドに降り立った燈矢を見ていると、燈矢はフィールドを降りて控室へと向かう。
その途中、応利がいる位置に近づいたため、燈矢はこちらを見上げた。
視線が合ったため、軽く手を挙げて讃えると、燈矢は珍しく優しい笑みを浮かべた。
その途端、周囲の女性たちから悲鳴のような喜声が上がった。
「勝ったぞ」とでも言うような笑みだった。
さっと控室に戻っていった燈矢の後ろ姿を見つめながら、応利は早鐘を打つ胸元を押さえる。
まるで、自分のために戦っていたかのように感じられたのだ。
いや、応利の記録に並び立って応利と対等になるため、というのが目標であったことを考えると、名実ともに応利のために戦っているようなものだ。
「あー…クソ、格好よくなりやがって…」
悪態をつくように小声で呻く。
燈矢に対して応利が抱く感情が何なのか、それがここ数カ月で急に形を成そうとしているようだった。