それぞれの想い−9


季節が進み8月になった。
夏休みということで、小学6年生の夏雄はよく外に遊びに行っており、高校1年生の冬美はバドミントン部の練習に行ったり友達と遊びに行ったりと充実している様子だ。

一方、燈矢は9月の仮免試験に向けた訓練を学校で続けており、合宿も控えている。
応利は社会人のためいつも通りの日々だ。

そんな中、小学3年生の焦凍が家で1人になる時間が増えており、応利はそれが気になっていた。
「家族」という形が崩壊しているこの家において、家族で行われるべき「体験」が圧倒的に足りていない。通常、子供の体験格差は経済格差と相関関係にあるものだが、この家の場合、経済的に極めて余裕があるにも関わらず、体験格差が如実に出ていた。

どうしたものか、と考えている日々だったが、パトロール中、夏祭りのポスターを見かけた。
凝山の隣の町で行われる大規模なもので、花火の音は毎年確かに聞こえてきていたように思う。

そこで応利は、事務所に戻った際、執務室で炎司に直接確認することにした。


「エンデヴァーさん、折り入って相談なんですが」

「なんだ」


デスクに座って書類を確認していた炎司は、書類からちらりとこちらに視線をやる。本来、こういうことは家に帰ってから確認しているが、今回は応利の夜勤調整も必要になるため、事務所で行ってしまうことにした。


「来週、隣町で大きな夏祭りがありますよね。そこに、焦凍を含めて子供たち全員を連れて行こうと思うんですが」

「…全員でか」


炎司は頭ごなしに否定することはせず、こちらに意図を確認する。応利に考えがあってのこと、と分かってくれているのだろう。


「焦凍は小学校3年生になりましたが、やはり家庭での体験が圧倒的に足りていません。子供の体験不足は情緒教育において非常に不利です。夏雄は幸い、俺や冬美が連れ出したり、本人も友達が多く遊びに行ったりしているのであまり問題はないんですが、友達付き合いがなく兄弟とも接していない焦凍は本当に体験が足りていません」

「体験格差というヤツか。確かに、それはそうだろうな。だがヒーローを目指すうえでは不要なものだ」

「あなたのようにアンチの多いヒーローになってほしいというなら止めません。ですが、人格的な振る舞いというのは子供時代の経験に影響を受けるものです。健全な成長をして正しくヒーローになるためには必要なことでしょう」


だいぶ失礼なことを言っているが、炎司は否定できるわけもないため言葉に詰まる。
そしてため息をついた。


「…分かった。許可する」


思いのほか早くに許可が出た。態度が過去に比べるとずっと軟化しているが、やはり燈矢が体育祭で2連勝していることが大きいだろう。燈矢自身が客観的に高く評価される実力を身に着けていることから、焦凍との隔離について、少しずつ制限を緩めることに意識を改めているようだった。



そうして週末、午後の休みを取った応利は、子供たちを車に乗せて夏祭りの会場に向かった。
全員で夏祭りに行く、と言ったとき、冬美と夏雄は嬉しそうにしてくれたが、燈矢は無感動、焦凍も戸惑いがあった。

それは道中の車内でも明らかだ。
運転席に応利、助手席に燈矢、後部座席に夏雄と冬美と焦凍が並ぶ。


「冬美、部活はどうだ?」

「ぶっちゃけ暑くてダラダラやってるんだよね、もともと熱心な部活じゃないし、私もそれがいいなぁって思って選んだし」

「冬美も夏雄も暑いの苦手だもんな。にしては、夏雄はだいぶ外に遊びに行ってるだろ」

「友達ん家行ってるだけだしなー」

「夏、中学上がったら部活何したいとかあるの?」

「どーだろ、でもバスケとか興味ある」


会話を振って回すのは応利、それに応じて会話を進めていくのが冬美という形だ。
夏祭りに誘ったときもそうだったが、焦凍は成長するにつれ、兄たちと一緒に遊びたいというより、兄たちとの距離をどうすればいいのか分からない、という状態になりつつあるようだった。普段話さない間であるため、どこか気まずそうにしていた。
夏雄も、焦凍とどう接すればいいのか分からず戸惑いが見られる。

燈矢は相変わらずそういったことに無関心のため、窓から外を眺めるだけだ。

そんな複雑な気まずい空気のため、応利と冬美が話を盛り上げ、夏雄もこの空気に耐えかねて積極的に会話に参加するという、どこか上っ面の状態だ。
こうなることは見越していた。だが、これがこのまま普通の状態になってしまえば、本当に子供たちの断絶が決定的なものになってしまう。

今日の目標は、焦凍の体験を増やすということと、兄弟たちの適切な距離感を探るということだ。


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