それぞれの想い−10
25分ほどで、夏祭りの会場に到着した。すでに交通規制で道路が渋滞しており、駐車場を探すのも一苦労だったが、なんとか公営の駐車場に停めることができた。
車を降りると、すぐに祭りの会場となっている大きな神社の喧騒が聞こえてくる。さすがに浴衣などを着ているわけでもなく、全員私服だが、応利は改めて子供たちの顔面偏差値に感心してしまった。
個性を使わないため髪を下ろしている燈矢はもちろんイケメンだが、冬美も成長して可愛らしい女の子になっている。夏雄は背が高く12歳にしては大人びているため、将来有望株だと一目で分かるし、焦凍は相変わらず天使のように可愛らしい。
「じゃあ行くか。はぐれんなよ。夏雄、焦凍の手を引いてやってくれ」
「はーい」
夏雄は素直に従って焦凍の手を握る。ほかは背が高いため見失うことはないだろう。
そして参道から鳥居をくぐり境内に入ると、途端に人混みの中、周囲の大勢の目がこちらに向けられた。
ニュースでよく報じられるヒーローの応利に、体育祭で2連勝したイケメンの燈矢がいるだけでなく、やたら顔の良い兄弟がいるとなれば人目を引いてしまう。ただ、子供たちとは言え5人という大き目のグループでもあるため、流れがある群衆ということもあり、声をかけられることはさすがになかった。
「よし、じゃあ気になった店全部めぐるぞ。好きなもん食っていいからな」
「よっしゃー!応利君、たこ焼き食べたい!」
「私チョコバナナとりんご飴かなぁ」
「見かけたら寄るか。焦凍もやってみたいものとか、食いたいものあったら言ってな」
早速夏雄と冬美が希望を出してくれるため、焦凍にも声をかける。大勢の人々に少し気圧されているようだったが、応利の言葉に頷いた。
「燈矢は?なんか食いたいモンある?」
「いや、なんでもいい。応利が作ったヤツじゃねェし」
「こういうところだからの良さってものがだな…」
さらっと嬉しいことを言われたため、応利は一応たしなめつつ最後まで言い切れなかった。燈矢はそんな応利の様子を見てニヤリとしていた。
そうして歩き出すと、すぐに焦凍が足を止める。ヨーヨー釣りの屋台だ。カラフルなヨーヨーが水に浮かび綺麗だった。
「やってみるか?」
「ん、」
焦凍が頷いたため、応利は金を払って釣り糸をもらう。
それを焦凍に手渡して、ヨーヨーの持ち手をプールから出して示す。
「その針をここに通して引っ張るんだ。好きなの狙ってみ」
焦凍は目を輝かせてヨーヨーを選ぶ。そして定めた一つの紐に釣り針を通そうとするが、なかなかうまくいかない。
それを隣で見ていた夏雄がアドバイスをする。
「違う違う、もっとゆっくり下から輪の中を通すんだよ」
「こう?」
「そうそう、うまいぞ」
夏雄の指示通りにやれば、焦凍は無事にヨーヨーを釣り上げることができた。夏雄は「やったじゃん」と焦凍の頭を撫でていた。距離を掴みづらくても、夏雄はそもそも優しい子だ。自然と焦凍を助けることで距離を詰められると思っていたが、早々に行動してくれた。
ヨーヨーを受け取った焦凍は、ヨーヨーをバウンドさせる新感覚にハマったようで、再び歩き出した後ろでずっとボヨンボヨンという音をさせていた。
続いてりんご飴の店があったため冬美の分を買い、焼きそばの店があったため応利が購入、たこ焼きの店で夏雄の分を買って、さらにチョコバナナの店でも人数分買う。
「燈矢、これも食っといて」
「俺は残飯処理かよ」
「いいだろ俺よりずっと食うんだから」
子供たちが食べきれなかった分は自動的に燈矢に処理させているため、燈矢はずっと何か食べている。
不満そうにしているが気にせず、今度は射的に子供たちが興味を示したため、焦凍と夏雄にやらせる。特に欲しいものがあったわけではないようで、取りやすそうなものを狙って落としていた。
「夏兄、どうやって落としたの?」
「端っこ狙うんだよ、バランス崩して落とすんだ」
「狙うってどうやって?」
「ここに力入れて支えるんだよ」
夏雄が焦凍のフォームを正してやり、焦凍が銃を撃つ。狙っていたのは箱に入った玩具だったが、角に当たったのか、掠めた際に反射して隣のぬいぐるみを直撃し、そちらが落下した。
奇跡的な反射角による射線に、夏雄は「えええ!!」と驚きながら爆笑し、焦凍も楽しそうに笑っていた。
「普通」の家族に強い憧れを持つ冬美は、楽しそうな下二人の様子にこちらも嬉しそうにしていた。
それを後ろで見守る応利は、同じく見ていた隣の燈矢に小さく声をかける。
「俺たちの仕事分かった?」
ゲットしたぬいぐるみを冬美に見せて満面の笑みを浮かべる焦凍、同じくゲットしたハンドスピナーを早速回転させる夏雄、それを見て嬉しそうに笑う冬美。
そんな3人を示して言ったことを燈矢も正確に理解したようだ。
「…仕方ねェな」
燈矢はそう返したが、まんざらでもなさそうだった。
そうしてまた参道を歩き出すと、燈矢は冬美が食べやすいよう、はしまきを半分にしてやったり、夏雄と手をつないでヨーヨーを持つことで両手が塞がる焦凍からぬいぐるみを受け取って持ってやったり、よそ見をして歩く夏雄に注意したりと、なんだかんだ面倒を見てやってくれた。
自然にこういうことができるのは、やはり兄貴だな、と思った。