それぞれの想い−12


迷惑なひったくり犯を捕まえて警察に引き渡し、1人になった隙をついて囲んできたファンやら野次馬やらに少し対応してから、応利は急いで境内の奥へと戻った。

そろそろ花火が始まる時間であり、集まっていた人々も少しずつ花火大会の会場となっている近くの川へと向かっていた。
そこまで行って花火を見る予定ではなかったものの、座って落ち着ける場所で少し見られればいいだろう。

スマホを確認すると、チャットで燈矢から待機している場所を教えてもらっていたため、そこへやってくると、神社の奥にある石の椅子に4人が座っていた。


「ごめん、待たせた」

「応利君お疲れ様、ジュース買っておいたよ」


子供たちのところまで来ると、冬美がすぐに缶ジュースを渡してくれた。さすがの気配りだ。
4人で椅子はいっぱいになっているため、隣の椅子に腰を下ろすと、燈矢もこちらに移動した。代わりに、持っていたクレープやたこ焼きを置く。

焦凍がクレープに興味を示したため、夏雄が渡してやると、焦凍はもそもそとクレープを食べ始める。口の端についたクリームを夏雄が拭ってやり、それを冬美がお手拭きシートで拭いてやり、燈矢が座っていた場所に置かれたごみ袋に入れる。
確かに、燈矢も移動した方がスペースはちょうど良さそうだ。


「応利君、川はこっちの方だから、ここからでも見られそうだよ」

「ほんとだ。結構開けてるんだな、外から見ると鬱蒼としてるように見えたけど」


冬美が示した通り、たくさんの木々に囲まれる境内であるため外からは分からなかったが、意外と空は開けている。

そして数分後、花火大会が始まった。
腹の奥底に響くような音とともに花火が炸裂し、上空に大きな花火が開く。大輪の花火に、一斉に歓声が上がっているのが聞こえてくる。


「結構いいモンだな、こういうの」


応利は、久しぶりに見た至近距離の花火に思わずそう呟く。聞こえていたのは隣に座る燈矢だけで、燈矢は応利の腰に腕を回す。


「いつもはうるせェな、ぐれぇにしか思わなかったが、応利と一緒だといいなって思う」

「…そっか。じゃ、また一緒に見よう」

「っ、応利…」


何とはなしに言った言葉だったが、状況的に少し意味深に聞こえたかもしれない。実際、燈矢は少し動揺した声を出した。
そこで応利は、燈矢に寄りかかりつつ、花火に照らされた端正な顔を見上げる。


「告白じゃねぇぞ?」

「…、クソ、たち悪ィ」


花火の色とは違う赤が燈矢の肌に差して、応利は満足する。普段からしてやられている意趣返しはできただろう。



花火大会が終わるとすぐに、応利は子供たちを連れて駐車場へ戻った。一斉に車で混みあう前に道路に出たかったからだが、すでにある程度の混雑は起きており、駐車場からは出られたものの、激しく渋滞する大通りで完全に止まってしまった。

まだ19時過ぎくらいの時間ではあるが、人混みはいるだけで体力を削られることや、夏の暑さ、はしゃいだことなどもあり、冬美、夏雄、焦凍は3人そろって後部座席で眠ってしまっていた。
気まずそうだった焦凍や戸惑っていた夏雄も、いつしか純粋に楽しんでくれていたように思う。

静かな車内には、大通りを埋める自動車の白いヘッドライトと赤いブレーキランプ、街灯の明かりが差し込み、エンジン音だけが響く。応利は運転中にラジオや音楽を流さないタイプのため、静寂だけがあった。

みんな深く寝入っていることが呼吸でよく分かるため、応利はこのタイミングで、助手席の燈矢に声をかけた。


「今日はありがとな、助かった」

「…まぁ、そもそもあんたは家族じゃねェんだから、本来こういうのは俺がやるべきことだろ」

「お、珍しいこと言うじゃん」


お互い小さな声と穏やかなトーンで会話が続く。燈矢がこういうことを言うのは珍しい。ふとしたときに長男だな、と感じることはあるが、それでも普段はあまり兄貴ぶらない。冬美や夏雄だけでなく、焦凍のことも含めて、自分の妹・弟だという意識が、今日は強く働いたのだろう。

せっかくなので、応利は言葉を続ける。


「俺は、親代わりや兄貴ぶるつもりなんてないけど、みんなに少しでも幸せになって欲しいし、楽しくて幸せな生活だと思って欲しいし、健やかに成長して欲しいと思ってる。そのためにできることをしたいってずっと思ってた。でも、燈矢がいなかったら全然できなかったと思う」

「…そりゃ謙遜だろ」


燈矢はちらりとこちらを見て否定する。確かに、これまで行ってきた行動ひとつひとつが可能だったかどうかで言えば、燈矢がいなくても可能だっただろう。だが、これはより根本的な部分の話だ。


「きっと一人だったら絶望に負けてた。みんなに覆い被さるそれをどうにかしようなんて思えなかった。燈矢がずっと頑張って、あんな状況でも家族を大事に思ってたから、俺も踏ん張ろうって気になれた。最初からずっと、お前は俺の支えだったよ」


応利の言葉に、燈矢は窓枠に頬杖をついたまま、こちらに顔を向ける。じっと見つめるその表情は真摯だった。


「それこそ応利のおかげだろ」

「ずっと頑張ってたのは燈矢だ。俺は手伝っただけ」


少し車が進んだため、数メートル前進させる。すでに前方では信号が変わっているのが見えていたため、ここで再び止まるだろう。
応利はそこで燈矢をまっすぐ見つめる。


「お前を見て、ちゃんと関わろうと決めた。踏ん張ろうと思った。俺は、それが燈矢の強さだと思う。優しくて真っ直ぐな、人のための炎みたいな強さだ」


あの絶望的な状況で、それでももがいていた。家族を全員恨んでもおかしくなかったのに、冬美や夏雄のことを大事にしていた。その優しさは、あんな地獄のような日々であっても、感じ取ることができた。
そういう燈矢の強さが、応利をこの地獄で立ち上がらせてくれたのだ。

燈矢は視線を外し、窓の外に移す。
「そーかよ」と一言だけ返したその声は、わずかに震えていた。

そんな優しい燈矢だったから、応利はヒーローになれると言ったのだ。


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