背中を預けて−3
2月、真冬の寒さが厳しい季節に、応利と燈矢は炎司から大規模な作戦への参加を求められた。
公安から実力のあるトップクラスのヒーローたちに依頼が出されており、エンデヴァー事務所はその総指揮にあたることになっている。
応利と燈矢、そしてほかの複数のSKたちは、炎司とともに作戦本部がある東京へと出張にやってきた。
公安本部の大会議室には、エンデヴァー事務所のほか、中堅どころの実力派ヒーローたちが勢揃いしていた。これまで応利が参加したことのあるチームアップ作戦としては最大規模のものだ。SKやオペレーターを入れれば100人近い規模となるだろう。
大半は首都圏のヒーローであり、作戦が行われる場所も埼玉県内にある。地方から来ているのは静岡県のエンデヴァー事務所のみであり、これはオールマイトがいないからというただその一言に尽きる。
広い会議室に、ロの字になった机が並べられ、公安委員長が前方の演壇に上がる。背後には説明用のスライドがスクリーンに投影されていた。
「お集まりいただきありがとうございます。それでは、指定テロ組織・普遍的福音計画、略称UGPの制圧作戦について説明します」
今回の大規模な作戦は、カルト宗教団体から分派した暴力的な武装組織UGPによる、大学や研究機関からの科学者の誘拐に端を発する。
複数の行方不明者の捜索の過程でUGPに行きつき、そこから調査を進めるうちに、UGPが化学兵器を用いたテロを計画していると判明したのである。
「誘拐された科学者は、いずれも個性による化学反応プロセスの省略や大規模な装置を不要とする化学反応の実現といった分野での研究を行っており、これらのことから、UGPはバイオテロを画策していると考えています。そのため、作戦は敵の通常戦力の制圧と、製造しているであろう化学兵器の無力化、そして科学者の救出という3本の柱で実行されます」
UGPには、銃火器など通常の武器の在庫も確認されており、通常戦力を削ぎ落とすことが必要になる。一方、化学兵器については大規模な破壊工作による無力化が不可能であり、特殊工作が求められる。加えて、どこにいるか分からない科学者の捜索と救出も並行する。
「オールマイトは米国出張中ですが、UGPによるバイオテロの発生が間近に迫っていることが懸念されるため、国内のヒーローによって急遽制圧を実行する運びとなりました。よって、本作戦はNo.2ヒーローのエンデヴァーに陣頭指揮を執っていただきます」
通常、このレベルの作戦であればオールマイトが参加する。米国出張中のオールマイトの帰国を待たずに実行するほど、事態は差し迫っているということだ。
炎司はオールマイトの代わりと言われているようで心底不快そうにしていた。エンデヴァー事務所の面々は前方に座っているため、全員からその表情が丸見えだろう。隣に座る燈矢は呆れていた。
「事前の各ヒーローとの作戦会議の結果、このように作戦を2分割、采配しました。まずは敵通常戦力の破壊と一般人員の制圧、組織の破壊を行う制圧部隊。そして、科学者と化学兵器を捜索し、救出と兵器の無力化を行う捜査部隊です」
敵施設に突っ込んで通常戦力の制圧や組織の壊滅を担うのが制圧部隊であり、こちらはエンデヴァー事務所の応利以外のメンバーやインゲニウムなど、攻撃的で広範囲を制圧可能なヒーローがアサインされている。
一方、捜査部隊は科学者の救出と化学兵器の無力化を担うが、こちらはエンデヴァー事務所からは応利だけが参加することになっていた。事務所の中で配置が分かれているのはここだけだ。
公安からは応利の参加を必須とするよう依頼が来ていたらしく、それは救出・工作活動において応利の個性が重要だったからだろう。
「本作戦の肝となるのは捜査部隊です。捜査部隊はベストジーニストを現場指揮として、ギャングオルカ、エッジショット、そしてエンデヴァー事務所のSKであるパスカルを主力メンバーとします」
社会的にもよく名前を知られ、ビルボードでも上位常連の中堅ヒーローたちの中に、SKでありながら主力としてカウントされるのは異例の采配だろう。
ベストジーニストは29歳、繊維を操る個性であり、広範囲を一瞬で制圧するだけでなく、大規模な攻撃から精密な工作までなんでもこなせる万能型のヒーローだ。
ギャングオルカはシャチのような見た目の大柄な男で、年齢は28歳、特に音波による索敵能力が現場で重宝されている。SKに海洋系の個性が多いことも特徴だ。
そしてエッジショットは27歳と中堅勢では若手寄りだが、体を糸のように細かく引き伸ばす個性を持っている。精密な工作活動はもちろん、その個性を応用した瞬間移動のような移動速度でまるで忍者のようだった。
そんな3人の中で、まだ21歳と若手でSKに過ぎない応利が加わるのは不相応にも思える。
だが、安全に敵を制圧するという意味では応利の個性は絶大な力を発揮するし、何より、もし万一にも化学兵器が作動してしまった場合には、応利の気圧操作によって施設の一部区画を物理的に閉鎖、有害物質をゼロ気圧の壁の中に閉じ込める応急処置が可能だ。
それは裏を返せば、応利は最も危険な場所に突入することになる、ということでもあった。