背中を預けて−4


調整がある炎司は東京に残り、一度応利と燈矢は帰宅することになった。作戦の決行は4日後と少し先であるため、先に家族と会っておけ、ということだろう。

二人で静岡へ向かう新幹線に乗ると、隣に座る燈矢がぽつりと尋ねてきた。


「…応利は、怖くねェの?」


当然ながら箝口令が敷かれているため、外で詳しい話はしない。曖昧にぼかした表現に努める。それでもグリーン車の静寂な車内では声が響くかもしれないため、声は小さくしてあった。


「怖いとかはないな。緊張感はあるけど、1人で人質解放やらされたことも何度もあったし…」

「…そうか」


さすがに場数が違う。だが、張りつめたような燈矢の表情は、単純に怖い、というようなものには感じられなかった。


「燈矢は?」

「…俺自身の恐怖とかはねェな。どうせインターンだからって後方配置だろうし。俺はむしろ、応利に何かあったらって思うと、不安になるし怖い」


どうやら燈矢の感情のベクトルは応利のことにあったようだ。自分が怖いというのではなく、応利が無事に作戦を終えられるのか、というところに恐怖を感じている。
それだけ、応利のことを大事に思ってくれていることの表れだ。

信用ないのか、と茶化すことも考えたが、自分の気持ちを自然に伝えてくれたことを大切にしようと思った。


「まぁ、俺もそういう意味では不安は常にある。家族のこと、お前らのこと、そういうの考えたら絶対死ねないって思う」

「…まさか公安が、あんだけ重要なポジションに応利を宛がうと思わなかった」

「ほぼ独立ヒーローみたいな扱い受けてるしな。単独派遣も多いし。まぁそんな心配すんなって、多分だけど、ジーニストたちは俺にあんま無理させようとしないと思う」


応利を甘く見ているわけではないが、彼らはもともと面倒見が良いタイプだ。後輩である応利を、守るというより優先しようとはするだろう。


「ただ、前も言ったけど、俺の2個上の先輩…確か白雲先輩っつったかな、その人はインターン中に殉職してる。お互い何が起きるか分からないのは確かだ。油断はしないようにな」


結局のところ、ヒーローという職業はいつどんな時でも、何が起きるか分からないというリスクの中にある。今回だけが特別、ということではない。



そうして一時帰宅をしてから二日後、再び東京へ向かう日の前日の夜に、応利と燈矢は子供たちに軽く話をしておくことにした。詳しいことは話せないが、きちんと覚悟はさせておかねばならない。

二人はまず、夏雄と冬美を居間に呼んだ。改まって話があると言われ、二人とも少し緊張した面持だ。出張が続いていることで、何か察している部分もあるのかもしれない。


「冬美、夏雄。俺と燈矢は明日から何日か出張で東京に行ってくる。詳しくは言えないけど、かなり大規模な作戦に参加する予定だ」

「そう、なんだ。危ないの?」


冬美は途端に不安そうにする。不安にさせたくない気持ちはあったが、もし万が一があったとき、残される側のことを考えるのが、家族を持つヒーローの義務でもある。


「正直、危ない。まぁ、燈矢はインターン中の学生だからほかのヒーローよりは安全なところにいるだろうけど、現場ってのは何が起きるか分からない場所だしな。危険はある」


危険があり、それを告げるために改めて話をしている、ということの意味を、冬美は正確に理解できる。ぎゅっとお腹あたりで手を握りしめていた。夏雄も、純粋に危険な状況を前にしているということで表情を曇らせた。


「大丈夫、エンデヴァーさんだっているし、他にも有名なヒーローが揃い踏みだ。そこまで心配しなくていいよ」


応利はそう言って夏雄の頭を撫でる。燈矢も、珍しく安心させるように薄く微笑んだ。


「気にすンな、俺らが強いの知ってるだろ」

「…うん、わかった」


冬美は頷く。頷いて送り出すしかないと理解しているからだ。
どうしても冬美は長女で、もし燈矢に何かあれば一番上の姉となる。もしものときの覚悟が一番必要な立場にならざるを得なかった。


二人への話を終えてから、応利は燈矢とともに焦凍の子供部屋にもやってきた。先日9歳になったばかりだが、頭はいいので状況は理解できる。

部屋に入ると、何事かと焦凍はこちらに駆け寄ってくる。こちらを見上げる焦凍に、応利は先ほどよりも砕けた言葉で、それでも隠さずに説明した。


「焦凍、明日から俺と燈矢は東京に少し出張に行ってくる。今回はかなり危ない仕事をしなきゃいけないんだ」

「危ないの?」

「そうだよ」


肯定した応利に、焦凍は一瞬何かを考えてから、燈矢の方を見上げた。


「燈矢兄も危ないの?」

「…まァな」


燈矢は「なんで俺も焦凍ンとこ行くんだよ」などと言っていたが、燈矢が頷いたのを見て、焦凍は意外にも燈矢に抱き着いた。
より大人である応利よりも燈矢の方が心配であるというのもあるかもしれないが、やはり兄だからだろう。純粋に、兄のことを心配しているのだ。

燈矢もまさか焦凍がそうやって抱き着いてくるとは思わなかったようで目を丸くする。そして、そっとその頭を撫でた。
ここのところ、焦凍を弟だとはっきり認識するようになった燈矢だが、きっとこの瞬間、二人はようやく、本当の意味での兄弟になったのだろう。


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