それは地獄のような−2
その年の体育祭も、応利はストレート勝ちして総合優勝を勝ち取った。
気圧の制御という応利の個性があまりに強すぎただけでなく、全員がそれに対処してきたのを別の工夫ですべて押し切った形だ。
燈矢だけでなく冬美と夏雄も冷に連れられて見に来ており、興奮したようにこちらに手を振ってくれていたのが可愛かった。
その後夏合宿も終え、9月には仮免試験を受けて無事に仮免を取得、直後からインターンの募集が始まり、応利は再びエンデヴァー事務所でのインターンを行うことにした。
炎司からオファーが来ていたのもそうだが、学校側からも、トップの成績を持っている以上はトップレベルの事務所で活動した方がいいというアドバイスがあったためである。
加えて、応利の個性が人質事件で絶大な効果を発揮することから、トップ事務所の方が社会に貢献できる、という要素もあった。
そうして、まだまだ残暑の厳しい暑さが続く9月中旬、応利は再びエンデヴァー事務所に通い始め、そして案の定、エンデヴァーからは引き続き燈矢に対して説得を行うよう協力を求められた。
正直、インターンという立場である以上それに従う必要はあまりないのだが、表向きは了承している。総合的にその方が楽だからだ。
早速、インターン初日にエンデヴァーの車で退勤するのに合わせて轟家にお邪魔する。体育祭で一瞬顔を合わせて以来、冬美と夏雄、冷とは4カ月ぶりであり、燈矢も表向きはそうだが、実際には半月ぶりくらいだった。
子供たちに挨拶をしてから、炎司に客間へと案内されるが、その廊下で応利は気になっていたことを聞いてみた。
「そういえば、一番下の焦凍君を見かけてないんですけど、別のお部屋にいるんですか?」
「あぁ…焦凍はあの子らとは隔離している」
「…隔離?」
話を聞くと、どうやら4年前、生まれたばかりの焦凍に燈矢が激高して襲い掛かったことがあったらしい。
炎司は背景や経緯を語ることこそなかったが、燈矢が「焦凍だけが成功作」と言っていたことを考えると、恐らく燈矢は焦凍が生まれたときにそれを理解して感情が爆発したのではないだろうか。8歳にしてもう自分はいらない、という現実を目の当たりにしたと考えれば当然の反応だ。
応利は、この期に及んで応利に詳しいことを言おうとしない炎司に少し腹が立った。燈矢から聞いているとはいえ、自分の口から語らないことは、まるで罪から逃げているようにも見えたからだ。
「…燈矢君と会った日に、だいたいのことは聞きました。都合の良い個性を持った子が生まれるまで子供をつくり、その末に生まれたのが焦凍君なんですよね。燈矢君が取り乱したのは、その事実を理解したからなんじゃないですか」
「だったらなんだ。焦凍は特別だ。俺の個性と冷の個性を完璧に受け継いでいる。一緒に過ごさせることは、どちらにも危害が及ぶ可能性がある。子供たちを安全に過ごさせるためには、焦凍を隔離した方が合理的だ」
確かにそれは事実だろう。なんであれ、燈矢たち上の子どもたちにとっては、焦凍は特別で自分たちは違う、ということが理解されてしまっている。一緒にいることは諍いを生むかもしれないし、彼らの持つ個性の潜在的な強さを鑑みればそれは危険だ。
炎司は確かに道具のように子供をつくった。だが、子供を愛する気持ちがないわけではないのだろう。ヒーローとして、「守る」ということに重きを置いている。
いや、父親としての振る舞い方が分からずヒーローとして振る舞うしかないのか。
なんであれ、そこは応利の干渉するべきところではない。「そうなんですね」とだけ返して、それ以上は何も言わなかった。