背中を預けて−6


一同は音を気にせず階段を駆け上がり、廊下を走る。音を立てずに素早く移動できるエッジショットが先行して該当する部屋に向かい、細い体を鍵穴から室内に通して中を確認してくれている。


「パスカル、エッジショットが非武装であることを確認していれば、突入と同時に科学者以外の者を気絶させてくれ」

「了解です」


声もゼロ気圧の壁の外には容易には届かない。簡単に打ち合わせをすれば、すぐに目的の部屋に着いた。
エッジショットもぬるりとドアノブから出てくる。


「誘拐された科学者5名およびUGP構成員3名を確認、当該3名は部屋の奥にまとまっている」

「助かります」


すぐに個性を発動できるよう、必要な情報を素早く伝えてくれた。これがフォローというものだ。
エッジショットは体を復帰させながら解錠し、即座に扉を開け放った。

中は実験室のようになっており、様々な薬品が所せましとデスクに並んでいた。これはジーニストのファイバーによる拘束では、どんな薬品が漏れ出すか分からず危険だ。本当に応利は適切な采配だったと言える。

瞬時に応利は奥にいた構成員を気絶させ、ジーニストが背後から出てきた科学者たちに呼びかける。


「ヒーローです、UGPを制圧し、皆さんを救出に参りました」

「ほ、本当ですか!」

「良かった…っ!!」


科学者たちは口々に安堵を浮かべ、中には力が抜けてへたり込む者もいる。
しかしさすがにここまですれば気づかれたらしい。オルカが廊下の奥を見やる。


「ようやく気付いたようだ。ジーニスト、迎撃を」

「そうだな、制圧部隊にも報告しておく。エッジショットとギャングオルカは先に奥の構成員を沈黙させてほしい。私もすぐに向かう。パスカル、オルカのSKとともに科学者を先に退避させてくれ」

「了解しました。皆さん、こちらへ」


オルカとエッジショットは部屋を出て廊下の奥へと走り出し、ジーニストは司令部に報告をする。
応利はインカムをオンにした。これ以降は通信による会話をしても問題ない。救出フェーズから制圧フェーズに入ったためだ。

オルカのSKが科学者から兵器のことを聞き出しており、それをジーニストに報告、ジーニストもそれを司令に報告した。
どうやら化学兵器は地下倉庫にまとめて在庫が保管されており、すぐに起動するようにはなっていないそうだ。まだ起動装置は取り付けられていないため、確保さえすれば危険性はないという。


ジーニストも制圧と兵器の確保に向かったため、応利はオルカのSKたちとともに科学者5名を引率し、すぐ近くの階段から1階に降りる。2階ではあちこちで構成員の怒声が聞こえており、突破は難しそうだったからだ。

1階に降りて、全員で走り出す。今度は音が聞こえていて欲しいため、ゼロ気圧の壁は出していない。


「申し訳ないですが急いで!すぐ安全な場所へ移動します!」


応利は運動不足の科学者たちを急かす。走ってはいるが、すでにバテていた。
最悪オルカのSKたちと抱えていくしかない、と思っていた、そのときだった。

突然、正面の部屋から廊下に構成員たちが飛び出してきたのだ。いつの間にか回り込んでいたらしい。ほかに通路や階段はなかったため、屋外から入ってきたのだろう。

すぐに気圧を下げて全員を気絶させる。応利に勝つには、最初から応利がいると分かっていなければ酸素ボンベなどでの対応はできない。それがあっても勝てるが。


「…その個性があれば……」

「はい?何か言いました?」


すると、科学者の1人が何かつぶやいた。廊下を走りながらのためよく聞こえなかった。
だが、その科学者の男は、落ちくぼんだ不気味な目で応利を見つめた。


「その個性があれば、もっとうまくいく」


そう言った直後、男は拳銃を取り出して発砲した。
咄嗟に応利は避けたが、近くを別の科学者が走っていたこともあり、被弾を防ぐため直撃を避けるくらいにしか動けず、銃弾は右足のふくらはぎを掠めた。

銃創の焼けるような痛みが全身を貫き、応利は呻きつつ男を気絶させた。


「パスカルさん!」


オルカのSKがすぐに応利を支える。科学者たちも目を見開いて動揺していた。


「な、なぜだ若林!いったい何を考えてる!?」

「まさかこいつ、最初からUGPに協力してたんじゃ…!」


どうやらこの男は、誘拐されて無理やり協力していたのではなく、勧誘されて正式に協力していたのかもしれない。こればかりは警察の捜査を待つしかないが、自分の研究が命、というタイプなのだろう。

痛みに表情が歪む。壁に凭れるが、さらに悪いことに、廊下の奥から構成員たちが接近する足音が響いていた。


「俺は走れない。5人を抱えて先に行ってくれ」

「し、しかし…」

「いいから!」


応利が急かすと、オルカのSKたちは狼狽えつつ、科学者たちを抱えて走り出した。3人とも力持ちであり、両脇に抱えて走っていた。

一方、応利は壁に凭れながら廊下の奥を見据える。こちらに向かう男たちは銃火器を持っていないため、攻撃可能な個性を持っているだろう。
応利は無線で報告をする。


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