背中を預けて−9
作戦はつつがなく終了し、すべての目標を達成、組織は壊滅した。以後、各戦闘員の裁判に向けた事情聴取や組織構造、資金の流れなどの調査は警察が管轄する。当然、応利に発砲した科学者もヒーローへの攻撃を理由にすでに起訴されている。
ヒーロー側の怪我は全員が軽傷であり、応利が一番重い怪我であるもののそれも銃創一つのみだ。コスチュームのおかげもあり、出血量こそ多かったが、傷はそれほど大きくも深くもなく、一晩入院すればいいだけの話だった。
埼玉県内の病院で一晩を明かし帰宅することになるが、迎えは燈矢が来てくれた。
炎司は事後処理があるため東京に残り、二人で新幹線に乗って静岡県に移動、駅からタクシーに乗り、無事に轟家に帰宅した。
休日の午後だが、厳しい寒さのためあまり街行く人の姿は多くない。
タクシーを降りて敷地内に入るとすぐ、燈矢は応利をまたも横抱きに抱え上げる。
「ちょ、おい!」
「まだるっこしいからいいだろ」
慌てて応利は松葉杖を手に持つ。そこまで歩くのが遅かったわけではないため、怪我にかこつけてこうしたいだけだろう。
ただ、怪我している以上抵抗もできず、されるがままとなってしまう。
「もう絶対足の怪我しねぇ…」
「おー、そーしろ」
ため息をつきながら言うと、玄関が開く音が聞こえてきた。二人の会話が聞こえていたのか、冬美と夏雄が出迎えてくれたようだ。
冬美は燈矢に抱えられた応利を見てぎょっとする。
「応利君!?大丈夫!?」
「全然平気、こいつの頭が大丈夫じゃねぇ」
「それはそうかもだけど、怪我はしてるんだよね」
「おいどういうことだ」
冬美は燈矢の頭がおかしいという応利の言葉に否定せず受け流したため、燈矢が呆れたようにする。夏雄も心配そう駆け寄ってきたが、見た目には大きな怪我がないため安心していた。
「ちょっと足に軽く怪我しただけだよ。松葉杖もすぐいらなくなる」
「そっかぁ、よかった。燈矢兄も大丈夫そうだね」
「まァな。それより、クソ親父の会見そろそろ始まるぞ」
「え、そうなの?見に行こ、夏」
「うん!」
冬美は夏雄を連れて室内に戻っていく。燈矢も応利を抱えたまま続き、中に入ったところで夏雄が扉を閉めてくれた。そこでようやく燈矢は応利を下ろした。
二人は荷物を置くためにいったんそれぞれの部屋に戻る必要があるが、冬美たちはリビングに向かっていく。
そこに焦凍も玄関へやってきた。
「おかえり」
「ただいま、焦凍。燈矢は大丈夫だよ」
「応利君は?」
「ちょっとかすり傷。でも全然平気」
不安そうに二人を見上げていた焦凍だったが、応利が安心させるように笑えば安堵を浮かべる。
「そうだ、どうせエンデヴァーさんまだ帰ってこないし、冬美たちと一緒にテレビ見ておいで。お父さん出るよ」
「ん!」
炎司がテレビに出ること自体はどうでもいいだろうが、冬美たちと一緒に見るというのは嬉しかったようで、リビングへと小走りで向かった。
それを見送り、燈矢は応利の分の荷物も受け取る。
「応利は先にリビングで休んでろ。俺が荷物持ってく」
「マジか、ありがと。助かる」
荷物は燈矢に任せて、応利は先に居間を抜けてリビングに入った。
ソファーにはすでに冬美と夏雄、焦凍が並んで座っている。応利がやってきたのを見て、三人は隙間を詰めてくれた。
1人分空いた左端に腰を下ろすと、ちょうどテレビ画面が会見の映像に切り替わる。
『それでは、今回のテロ組織の制圧作戦について、司令となったヒーロー公安委員会、および総指揮のエンデヴァーから説明をさせていただきます』
ヒーローとしてのエンデヴァーが画面の向こうにいることに違和感はないが、この家の父親である炎司がいると考えるとなんだか不思議な気がしてくる。
会見は作戦概要の説明を公安広報が、詳細な説明を炎司が行った。その中には、誰がどのような動きをしたかということも説明がされている。特に近隣住民への説明責任のためにこういう会見が行われるが、犯罪の抑止という意味もある。
炎司は建物の簡単な見取り図のパネルを示して説明を続ける。
『途中、救出対象であるはずの科学者5名のうち1名が敵側についており、護送中のパスカルを銃撃。幸い軽傷で済んでおり、パスカルが応戦したことで他4名に負傷はなかった。その後、本館1階は構成員に包囲されるも、負傷したパスカルが1人で応戦を続け、インターン中の仮免ヒーローの応援によって包囲を壊滅させ、科学者5名およびギャングオルカのSK3名、パスカルとインターン生の本館からの撤退を完了した』
「仮免ヒーローって燈矢兄のこと?」
夏雄が興味津々で尋ねるため「そうだよ」と返す。
ちょうどそこに、燈矢もやってきた。ソファーには座らず、右側のアームレストに軽く腰を掛けるようにして立っている。
画面に映る炎司を見て嫌そうにしていた。
一方、冬美は背もたれに体を預けて目を伏せる。
「でも、やっぱりヒーローって危ないんだね。こんな映画みたいなこと、二人がしてたなんて」
「それを言えば俺は何度も1人で人質事件の解放とかやってるしな…今更だろ」
「分かってたつもり、だったのかな」
やはり冬美は動揺も大きい。優しい子であることはもちろん、この春には高2となるということですっかり大人びている。
「そのために事務所があって、SKがいて、チームアップをするわけだ。俺も燈矢も、1人でっていうのは滅多にないことだし、実際今回も燈矢に助けてもらった。ヒーローはヒーロー同士、助け合ってるからそこまで心配しなくていいぞ」
何を言っても心配してくれる気持ち自体はなくならないだろうが、応利の言葉に、ようやく冬美は小さく微笑んで頷いた。
家族でなくとも、家族同然の子供たちだ。心配させないようにするためにも、応利はもっと頑張らないと、と改めて奮起した。