背中を預けて−10
季節は春から初夏へと進み、5月となった。
高校3年生になった燈矢の、最後の体育祭である。
例年通り、そしてこれが最後となるだろうが、冬美たちを連れて観戦にやってきた。今回は3年生の部であり、会場は最も大きいスタジアムであり、観客数もテレビ視聴者数も最も多い。
熱気や歓声の質も桁違いで、数年前に自分がこの場に立ったことが遥か遠い昔のようだった。
今回は運よく一番前の席を取ることができたため、ステージまでかなり近いところにいる。
「すごい、すぐそこに舞台があるね」
「夏雄、あんま乗り出すと危ないからな」
夏雄は小学生にしては大きいこともあり、興奮して身を乗り出すと、思わぬ個性の余波を受ける可能性がある。応利がいる限り危険などないが。
今回は、応利としてもわりと楽しみにしていた。燈矢のことはもちろん、この3年間燈矢が切磋琢磨してきたヒーロー科の生徒たちの成長を見るのも楽しい。エンデヴァー事務所では燈矢しかインターンを受け入れていないが、たまにメディアでほかの事務所にインターンをしている生徒たちの活躍も目にする。
特に、先日の合同作戦においても、ベストジーニストのところのインターン生をちらりと見たが、後輩の活躍は嬉しい。きっと、ジーニストたちも応利のことをそういう風に見ていたのだろう。
苦戦した昨年と比べると、今年の燈矢はかなり順調に予選を勝ち進んでいる。やはり、インターンを通して父親やSKの個性の使い方を間近で学んできたからだろう。
いたずらに延焼させることなく、適格に必要な温度と量の炎を必要な場所に狙って放っている。
また、単純な炎の放出だけでなく、足技や移動への応用など、炎による細かい工夫も芸が細かくなっていた。
こうして客観的に見ると、目覚ましい成長だと思う。
依然として、どうしても体質的に炎を使い続けることや温度を上げ過ぎることはできない。それでも短期決戦で一気に決めるということについて、燈矢はそれこそ血反吐を吐くような努力をしてきた。
それもすべて、応利と一緒にヒーローになって対等な立場となるためだというのだから、成長を実感する度に、心臓が不整脈になる。
そして午後となり本戦が始まる。やや手こずる相手もいたが、燈矢はどんどん勝ち進んでいき、ついに決勝戦となった。
相手は昨年と同じ翼を持つ個性の生徒だ。
戦いが始まるのと同時に、相手の生徒は猛烈な突風を吹き付ける。翼が生じさせる風の威力は昨年と桁違いであり、翼自体が大きくなっているように見える。
吹き付ける風に冬美が目を閉じて腕を顔の前にかざす。
「わっ、前見えない!」
「ちょっと待ってろ」
客席にまで強い風が吹き付けたため、応利は自分たちの前にゼロ気圧の壁を出現させ空気の移動を遮る。まるで窓があるかのように、風は直接届くことなく、壁の周囲から回り込んでくる微風に留まる。
おかげで、燈矢が暴風の中、姿勢を限りなく低くして一気に蒼炎を噴き出したのが見えた。
フィールドを囲むように様々な個性のヒーローが警備として立っており、最新鋭のロボットも組み合わさり、風に乗って炎が客席へ届くことがないようになっている。
急激に熱された空気は上昇気流へと転じ、風がどうしても上方向に変更させられる。その一瞬の隙をついて、燈矢は風上へと、足から炎を噴き出して一気に飛び出した。
そこから地面を蹴って相手の背後に回るが、相手の生徒もそれに気づいて瞬時に滑空する。戦闘機のように燈矢へと飛び出すが、燈矢はあえて落下することでそれを避ける。
下方に飛んだ燈矢に、相手は再び上空から風を吹き付けるが、同時に燈矢は炎を放出。風に乗って炎が一気に拡散し、相手から燈矢が炎に阻まれ見えなくなった。
凄まじい熱によって客席の観客たちも身を引く。その輻射熱だけで火傷しそうなほどだが、炎の膜の下では、燈矢が床に寝そべって腕を上に向けているのが、下層席の応利には見えていた。
そして炎の放出を止めると、相手も風を止める。視界が晴れていくが、先ほどまでいた場所には燈矢はいない。
それに気づいたときにはすでに、まだ炎が風に乗って残っている場所から、正確に燈矢の炎がビームのように射出された。それは相手生徒の翼の一部を貫く。幸い神経は通っていないようだが、飛行能力は減衰し、追撃を恐れて生徒は一気に距離を置いた。
だが、間合いは遠い方が燈矢には有利だ。
直後、突如として巨大な赤い炎の竜巻が現れた。まだ会場内を渦巻く相手生徒の風を上昇気流に変え、残っていた炎を巻き込みながら、炎が空へと立ち上がる。