消えない過去、生きたい未来−2
12月6日、冬美の17歳の誕生日を迎えた。
例年、プレゼントもケーキもいらず、ただいつもより豪華な夕食だけを求められていたが、今年は少し違った。
前日の夜、台所で応利が食器を洗い、冬美と燈矢が居間から食器を持ってきてくれているときだった。
冬美がシンクの脇に食器を置くと、「あ、そうだ」と声をかけてくる。
「応利君、明日はお休みって本当?」
「あぁ、年末年始は休めないから、代休を前後に分散させてるんだ」
「じゃあさ、誕生日プレゼントってことで、明日デートしてくれない?ちょうど期末試験の最終日で午後まるまる休みなんだ」
その冬美の言葉に、背後で食器が大きく音を立てた。広い台所にはダイニングテーブルと椅子もあり、そこに燈矢は食器を置こうとしていたようで、そこで冬美の言葉を聞いて動揺したらしい。振り返って確認したが、割れてはいなかった。
「冬美ちゃん、それどういう意味だ…?」
「どういうって…ただ一緒に遊びに行きたいなってだけ。てか二人はいつも一緒だからいいじゃん、付き合ってるんでしょ?」
今度は応利が持っていた食器を取り落とし、シンクで大きな音を立てた。幸いこちらも割れてはいない。
「なっ、冬美お前、何言って…!?」
「あれ、まだなんだ。まぁなんでもいいけど、今回は私が独り占めするの」
冬美の衝撃発言に、二人して驚愕してしまう。冬美は応利と燈矢がすでに付き合っていると思っていたらしい。
突然の出来事に燈矢も毒気を抜かれ反論ができなかった。応利も断る理由は元からなかったため、とりあえず冬美と午後から出かける約束をした。
翌日、午前中で学校を終えて帰ってきた冬美が着替えなど支度をしてから、応利は一緒に家を出た。
ちなみに燈矢は学校からインターンの予定である。
応利が車を出して、駅前の大きなデパートに向かった。道中、応利は助手席の冬美に話しかける。
「にしても、私服になってくれて助かった。制服のまま行こうとしてたら止めてた」
「応利君、顔知られてるもんね。私だって、応利君の隣歩くのにお洒落しないわけにはいかないし」
「別に俺相手なんだからジャージでもいいだろ」
「もう!応利君がどう思うかじゃなくて、応利君の隣をダサい女が歩いてるって思われたくないってこと!」
「そんなもんか…?」
「そんなもんなの!」
よく分からないが、冬美が周囲からどう見られるか、というところを気にしているのは理解した。なんであれ応利は有名人であることは確かなので、自然と注目されてしまうというのは実際そうだ。
それならよく一緒に行こうと思ったな、というようにも感じたが、それを言葉にするのはさすがにデリカシーがなさすぎる。
デパートに到着してから、とりあえず冬美の行きたい店に付き合った。平日の午後ということで、店内の人はまばらだ。大学生や、ちらほら期末試験後の高校生の姿があるくらいか。
途中の服屋で、冬美はクリーム色のカーディガンと明るいグレーのカーディガンを並べ、応利に見せてきた。
「ね、カーディガンどっちの方がいいかな」
「それは自分目線?それとも他人目線?」
「うーん…別にカーディガンなら他人からどうこう、ってのはないかな」
女子がこういうことを聞いてくるのは背中を押してほしいからとされるが、個人的には、より正確にはそれぞれの特徴や良さを自分の中で言語化・内面化できていないため、客観的判断を可能にしたいからなのでは、というようにも思っている。ただ聞いているだけというのもあるだろうが、冬美は試すために聞いているわけではなさそうだ。
「自分が鏡で見たときとか、下を見て視界に入ったときとか、教室で座ってるときに見える袖とか、そういうときに見たいのはどっちの色なんだ?」
「…それならクリーム色の方かなぁ」
「だろうな、寒いし天気も悪いから、気分変えたいんだろ?それならはっきり暖色の方がいい。眼鏡とかリボンの赤色がアクセントで映えやすいだろうし」
「うわ、マジでそう。応利君すごいね、なんとなくこっちかな、って思ってたけど、言葉にされると、私無意識にそういうイメージだったかもって気がしてくる」
案の定、言葉によって具体化することで、漠然とした印象での良し悪しが言語化され、自分の中に落とし込めていた。
「じゃあこれにするか?」
「うん!」
冬美はクリーム色のものに決めて、グレーのものを戻してからレジに向かう。
後からついていきレジで会計を行うと、応利はトレーにカードを置いた。冬美は驚いて財布を取り出す。
「えっ、そんないいよ、私自分で買おうと思ってきたし」
「気にすんなって。誕生日プレゼントってことで」
「…、うん、ありがとう」
気遣いができる冬美だ、それ以上は食い下がらず、こちらを立てるためにも了承した。スタッフはスマートにカードを受け取って会計を済ませる。
カーディガンを受け取って歩き出すと、さすがに冬美は自分でカーディガンを手に持った。応利もそれくらいは拒否せず、袋を差し出す。