消えない過去、生きたい未来−3
「応利君、予想に違わずそういうとこスマートだよね」
「そうか?でも俺、中学以来、彼女いないけどな」
「え、天然でこれできるの?さっきの色選ぶときもだけど、手慣れ過ぎてない?」
「別に経験なくても、相手の立場になって考えれば分かるようなモンだろ」
忙しすぎて高校時代に彼女はいなかったし、卒業してからもヒーロー活動の中でそんな余裕はなかった。
それに、燈矢が告白紛いの言葉で感情を伝えてからは、彼女を作ろうという気にもならなかった。
昨晩、そして今朝と、燈矢は若干ぎこちなかった。冬美にまだ付き合ってないのかと言われて、ほんの少しだけ、二人の間には気まずい空気が流れていた。
「つか、冬美が昨日、俺と燈矢が付き合ってるとか言ったんだろ。ちょっと気まずかったんだからな、あのあと」
「あはは、ごめんね。本当にもう付き合ってるんだとばっかり…あ、せっかくだし、カフェでお茶しながら話さない?」
すると冬美は、ちょうど同じフロアにあったチェーン店のカフェを示した。ファミレスにも似た、個室っぽい高い仕切りで各シートが囲まれたお店だ。平日ということもあって、主婦ばかりで空いていた。
応利としても燈矢のことで話を聞いてみたかったためそれに応じて、カフェに入る。
スタッフに示されたボックス席に入ると、二人は適当に温かい飲み物を頼んだ。
しばらくは他愛ない話をして、スタッフが飲み物を持ってきたところで、冬美が切り出した。
「…それでさ、実際、燈矢兄のことどう思ってるの?」
単刀直入なそれに、応利も言葉に詰まる。さすが女子高生、恋バナとなると熱量が違う。自分の兄、それも同性同士であっても嫌悪感というものは一切ないらしい。
「……自分でも、よく分からねぇんだよな。ただ恋愛的に好きかどうか、っていう分かりやすい基準を設けるには、複雑すぎる」
「そうだよね、燈矢兄にはずっと前からそばにいてくれてたんだもんね」
感情を明かされてから、ずっと答えが出ないままだった。もし本当に告白されたら、応利は自分がどう返すのか分からなかった。
「…でも最近は、あいつを見てると胸が苦しくなるんだよな。燈矢は、俺と一緒にヒーローになりたいからって、憎んでる父親すら頼って、実際に体育祭で3連覇までして、この前は実際に助けてくれた。俺と恋人になるには対等にならないといけないって、そう努力してくれてるんだ」
コーヒーを飲みながら正直に話すと、冬美は少し顔を赤らめて両手で顔を押さえる。
「燈矢兄、そんなこと言ってたんだ。あぁ見えて目標にはまっすぐだもんね」
「そういう燈矢を見てると、ドキッとするっていうか…これってもう、俺も好きってことだよな」
年下の女子高生に何を聞いているんだという気がするが、冬美は気にせず微笑む。
「これからもずっと一番近いところで一緒にいたいんなら、好きってことだと思うよ」
今の応利の気持ちが恋なのかまでは、冬美は断言しなかった。それでも、特大のヒントをくれた。
この先の未来。そこに、燈矢が隣にいて欲しいかどうか。答えは、考えるまでもなかった。
「…マジかー……」
きっと見るからに応利の顔は赤くなっていることだろう。顔を覆うようにテーブルに突っ伏すと、冬美は小さく笑う。からかうものではなく、嬉しそうに弾むそれに、もう一口コーヒーを飲みながら顔を上げる。
すると、冬美はゆっくり口を開いた。
「燈矢兄、ずっとお父さんに見てもらいたいって無理してて心配だったの。お父さんともお母さんとも距離ができて、毎日やけどして…こうやってほかのことに目が向いて、ヒーローになる目標も達成できて、前向きな気持ちになってくれてるのが嬉しいの」
成長した今、あの火災のときがどれだけ危険で、死の一歩手前だったか、冬美は理解している。その瀬戸際を辛くも逃れて燈矢は生きており、それを分かっているからこそ、今の現状が奇跡的なものだと慈しんでいる。
「…前からそうだったけど、ほんと、いい子に育ったな」
「だって応利君が近くにいてくれたんだもん、当たり前でしょ?」
つい口にした言葉に、冬美は意外にも謙遜ではなく、そんなことを返した。
自分がいい子だというのなら、それは応利がそばにいたからだ、という言葉に胸が詰まる。
「…だからありがとう、応利君。ずっと燈矢兄の、私の、私たち家族のそばにいてくれて」
「っ、」
不覚にも少し涙ぐみそうになって、応利は慌ててカップに口をつける。コーヒーを飲み干してしまった。その底に溜まった苦みのおかげで、辛うじて涙が零れることだけは防げた。