消えない過去、生きたい未来−4


冬美の誕生日から約1か月後、年が明けて1月18日、燈矢の18歳の誕生日となった。

この日はもともと二人ともオフの日曜日だったが、事前に燈矢からは「プレゼントとして時間が欲しい」と言われていた。冬美とのことを彷彿とさせるものだったが、少し緊張した面持だったため、内心では覚悟をしていた。
すでに応利の気持ちに整理はついている。いつ燈矢から話を切り出されても大丈夫ではあった。

当日、午前中から二人は出かけた。当然、二人とも私服である。
応利は黒のチノパンに赤いシャツ、ネイビーのトレンチコートというシンプルな出で立ちだ。燈矢は寒さに強いため、黒いシャツに黒いジャケット、ジーンズと見た目には薄着に見える装いだった。なお、二人とも軽い変装で黒いマスクをしている。

車を出そうと思ったが、電車に乗って少し離れた大きな街へ行くと言うため、素直に従って公共交通機関で移動する。
乗った電車はかつて雄英への通学でも使っていた路線で、少し懐かしくなる。


「卒業したら燈矢もこの電車使わなくなるなぁ」

「俺も免許取る」

「じゃ、燈矢の運転で出勤だな」


燈矢は12月に本免許試験を無事に通過しており、同時にエンデヴァー事務所の内定も出ている。この春、卒業と同時に入所する予定だ。

15分ほどして目的のターミナルに到着する。複数の路線が集まる中核的な駅であり、多くの商業施設が建っている。
その中でメンズ服の店が多い百貨店に入り、適当に店をめぐり始めた。


「燈矢はスタイルいいからなんでも似合うよな」

「そっくりそのまま返す」

「でも燈矢の方が身長あるだろ」


すでに燈矢は身長が175センチになっており、応利より5センチほど背が高い。一方で体の厚みはしっかり増しており、Tシャツとジーンズだけでも相当様になる。独特のダウナーな雰囲気も後押ししているだろう。

こちらをじっと見下ろして、燈矢はふっと微笑む。


「かわいいな」

「ハッ倒すぞ」


軽く足蹴にしつつフロアを回っていく。特にめぼしいものこそなかったが、互いが互いに「これは似合いそう」というのを言いながら歩くのは楽しかった。同性だからこそだろう。

ふと、燈矢はカップルに視線をやった。このフロアは半分が女性ファッションを扱う店であり、そこで彼女が彼氏にどちらかいいかを尋ねている様子だった。
それを見て燈矢が口を開く。


「前に冬美ちゃんにあれやられて、めっちゃダメ出しされた」

「…あぁ、どっちがいいかってやつ?お前下手そう」

「応利のは真剣に考える」

「俺は自分でスパッと決めるけどな」


どうやら、先月冬美は応利に「手慣れてる」と言ったのは、それより前に燈矢に同じことをしたときにダメダメだったかららしい。他者に興味がない燈矢にそんなことを聞く方が悪い。


「俺が選んだやつ着せてェな」

「お互いにコーデ決めんのも楽しそうだな。別にそんなファッションに拘りとかないけど、燈矢に選んでもらったやつ着るのも、俺が選んだやつ燈矢が着るのもいい」

「確かに。今度やるか」


もし冬美がこの場にいれば「なんでまだ付き合ってないの?」と言われかねない会話だ。さすがにちょっと恋人っぽ過ぎたな、と内心で反省しつつ、メンズ服のフロアが終わる。


「どうする?なんか買うか?」

「…いや、俺はいい。応利も特にねェなら、適当にカフェでも行くか」

「ん、分かった」


ヒーローをやっている二人がこれくらいで疲れる、などということはないが、目的なくぶらぶらするなら、適度に腰を落ち着ける方がリラックスになる。

デパートを出て少し繁華街を進むと、路地を折れて人通りの少ない道に入る。
そこにあるカフェに燈矢は入っていき、応利は意外に思った。

非常に雰囲気の良いカフェであり、会話を聞かれるほど静かではないが、緑が多く客層は落ち着いている。お洒落なBGMのおかげで沈黙も気にならない。
人と話す、という意味ではとても良い条件が揃ったカフェだった。

スタッフに通された二人掛けのテーブルについて、二人ともコーヒーを頼む。コーヒーの良い匂いが満ちる店内はとても居心地が良かった。

適当に、などと言っていたが、恐らく事前に調べてあったのだろう。道のりも迷いがなかったし、ここは学校とも事務所とも離れた街だ。意外と下調べをしておくタイプのようだ。


「いい店だな。緑多くていい感じ」

「応利、そういうの好きだろ。よく庭でも木とか花とか見てるし」


なんと、燈矢は応利が緑のある空間を好んでいることを知ってこの店にしたようだ。燈矢が言う通り、たまに応利は轟家の庭に出て、池のふちに生えている草や花壇の花、立派な松の木などを眺めている。


「…え、知ってたのか」

「お前のことは見てる」


これも常々燈矢が言っていることだ。他人に興味はなくても、応利のことは関心を持って見ている。だから、応利のことなら気づける。
それをこうして形にしてもらうと、はっきりと特別扱いされていることが感じられた。


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