消えない過去、生きたい未来−6
元の二人の関係に名前がついていたわけではないが、互いに想いを伝えあったことで、少なくとも「恋人」というラベルがつけられた。
とはいえ、燈矢は18歳になったもののまだギリギリ高校生だ。そこはけじめとして、卒業するまでは、恋人としての具体的な関係の進展は行わないと決めてある。
燈矢も「今更3か月くらいどうってことねェ」と特に食い下がることもなく、とりあえず、二人はこれまで通りの状態が続いている。
そんな中、1月下旬に冬美が高校の修学旅行で九州に向かった。燈矢、冬美、夏雄に応利を加えたチャットグループに、時々現地の写真を送ってくれている。友人たちと楽しそうに過ごしているようで安心した。
応利は仕事の、燈矢もインターンの業務を終えて一緒に応利が運転する車で帰る道中にも、冬美が夕食の写真を送ってくれたため、助手席に座る燈矢がそれを確認して、赤信号の間に応利に見せた。
「うわ、うまそ」
「食い物の写真ばっかじゃねェか」
少し呆れたようにする燈矢に、ふと応利は気になったことを聞いてみる。
「本当に中学の修学旅行参加しなかったこと後悔してねぇの?」
「まったく。その分、応利と一緒にいられたしな」
中学3年の修学旅行では、燈矢は修学旅行に行かず、受験のための訓練に時間を充てた。直前の三者面談で教師や応利も行くよう勧めたものの、本人が行かないと決めた以上、応利は最終的にそれを尊重した。
雄英ヒーロー科に修学旅行はないため、中学が唯一の機会だったのだが、そこで応利はあることを思いつく。
青信号になったため車を発進させつつ、応利はそれを提案してみた。
「燈矢、それなら一緒に修学旅行リベンジでもするか?卒業旅行も兼ねて」
「…え、それ二人旅ってことか?」
「そうなるな。俺も有給休暇使えってエンデヴァーさんに再三怒られてるし」
これから本格的にヒーローとして働き始める燈矢に、そうしたまとまった時間は取りにくくなる。応利とて、休めるタイミングは限られていた。
様々な意味でちょうどよいタイミングだったが、燈矢は真剣な表情でこちらを見つめる。
「行く、絶対行く、死んでも行く」
「お、おぉ、そうか。じゃ、卒業式の後くらいで日程決めるか」
あまりに真剣な顔で何を言うかと思えば、食い気味な了承で、応利は苦笑する。
応利となら行きたいと思ってくれているようだが、応利も、燈矢とどこかに行きたいとずっと思っていた。
それに、タイミング的には卒業後となる。宿泊を伴うであろうことから、きっと、そういうことにもなるだろう。
応利はそちらの準備もしておかなければ、と内心で覚悟を決めていた。
3月末、二人は新幹線で京都へと出発した。
炎司には正直に「卒業旅行と修学旅行を兼ねて二人で京都に行きます」と言ってあったが、炎司は特に何も言わなかった。仲が良いな、と多少困惑していたくらいだろうか。まさか付き合っているとは夢にも思わないだろう。
冬美も、「家のことは気にせず楽しんできてね」と言ってくれていたし、夏雄も「燈矢兄よかったね」と言って送り出してくれた。夏雄はともかく冬美は確実に二人のことに気づいているだろう。
新幹線はグリーン車で、二人並んで座っている。
3月末という春の盛りであり、比較的寒がりな応利は薄手のパーカーに革のジャケットとジーンズというカジュアルな服装、燈矢は黒い七分丈のTシャツに細身のブラウンのチノパンというシンプルな装いだった。
遅めに出発したため駅で駅弁を買ってあり、昼は車内で済ませることにしてあった。
袋から弁当を出していると、燈矢が先に応利の弁当を手に持った。
「どうした?」
「…ン、これくらいだろ」
「え、うわ、温かい…ありがと」
なんと燈矢は、手に持った弁当を温めてくれたようだ。炎を出す一歩手前で留め、熱だけを弁当に伝えている。一気に温度を上げて食材の味が落ちないよう、時間のかけ方への配慮までしてあった。
さらに食後、モバイルオーダーでアイスを注文してアイスが届くと、新幹線特有の固すぎるアイスも、燈矢がじんわり熱を伝えることで、開けてすぐに食べやすい適切な状態になっていた。弁当よりも精密なコントロールが求められるはずだが、これも完璧にこなしていた。
「すげぇな…前に、焦凍のクリスマスプレゼントのチーズをお前の炎で溶かしたときより、ずっと調整がうまくなってる。成長したなぁ」
「どこに成長感じてんだよ…」
アニメでチーズを溶かすシーンに憧れた焦凍のために、クリスマスに燈矢の炎でチーズを炙ったときが懐かしい。表面が焦げないように調節するのさえ苦労していたというのに、今やアイスから弁当まで何でも温めてしまえるまでになった。
何より、頼まれる前に自分で応利のために行動してくれていることが嬉しかった。
つい、今回の旅行も応利が燈矢を連れていく、というように考えそうになるが、これは二人の旅行だ。燈矢がこうして応利のために動いてくれたことで、それを改めて実感する。
この5年間、「自分がやらなければ」というマインドでずっと過ごしてきたものが、今急に、肩の力が抜けたような気がした。