深まる関係−1


4月、新年度となった。
エンデヴァー事務所に入所した燈矢は、インターンから継続してのことだったため特に自己紹介などはなかったが、正式なSKとなることで一応挨拶の場があった。
といっても、朝礼の一幕というだけであり、全員がオフィスに集まる中、正面に立つ炎司のところに燈矢が出向く。


「皆も知っての通り、本日から正式にSKとして採用したトーヤだ。俺の息子ではあるが、引き続き、特別扱いは不要だ」

「…トーヤです、引き続きよろしくお願いします」


一番特別扱いしているのはあんただろう、という心の声が全員から聞こえた気がした。
その空気を理解している燈矢は呆れたようにそれだけ述べる。燈矢に愛想がないことも全員知っているため、挨拶がそれだけだと分かっており、拍手で応じる。


「トーヤは主にパスカルの通常業務のフォローに入るが、パスカルが応援派遣されている間はSKチームに入ることも多いだろう。各自、改めて連携を確認しておけ」


炎司は、燈矢の主な配置を応利のそばとした。付き合いが長いという情緒的・経験値的な部分もそうだが、応利の弱点である俊敏な範囲攻撃の個性を持つ相手に対するカウンターとして機能することが主目的だ。
応利が別地方の人質事件などに駆り出されるときは、地元ヒーローでの対応ができない状況に陥ってからという事後的なときが主であり、そういう場合は地元ヒーローとの協力もあって燈矢の出番はあまり想定されない。犯人の個性から燈矢もいた方がいいときは一緒に行動する、というくらいだ。

炎司はあれで各SKのことを非常によく見ている。基本的な性質だけでなく、どれだけ成長したか、どういう経験を積んだかなど、時間が経過する中で変化する部分まで含めて観察しており、適格に配置する。
そういうところは、ただのプロヒーローではなく、人の上に立つ者としての素質も感じ、素直に尊敬できるポイントだ。

朝礼が終わり、軽く朝の事務処理を終えてから、早速パトロールの時間となる。
今日は午前中に市内のパトロールを行い、午後の前半は事務所で待機、後半は繁華街のメインストリートの高所からの監視という予定だ。


「トーヤ、準備できてるか」

「あぁ」


まだ朝の事務仕事が振られておらず、応利の隣の席で手持ち無沙汰にしていたため、準備はできていて当然だ。
応利は燈矢と連れ立って、「パトロール入ります」と待機組に声をかけてから事務所を出た。

すでに通勤ラッシュは過ぎており、ラッシュ時間の警戒を行う夜勤組は退勤した。日勤組は日中から夕方の帰宅ラッシュまでを担当する。

地下駐車場に向かい、事務所の車に乗り込む。応利が運転席に座り、燈矢は助手席だ。


「今日は郊外が担当だ。概ね東西南北に郊外エリアを歩いてパトロールして、エリア間の移動は車で行う」

「了解。暇そうだな」

「とか言ってると何か起きるからな」


平日の住宅街に何が起こるというのかという話だが、意外とトラブルはあるものだ。
車を発進させて駐車場を出ると、まずは南へと向かう。落ち着いた高層ビル群の中、炎司が上空を飛んでいくのが見えた。炎司は常に市内中心部のパトロールを担当している。

郊外といっても街の姿は様々だ。
西部は多くの工場が立ち並び、たまに火災など事故が発生するため人口に対して出動率は高い。一方、東部は高級住宅街が多く、こちらも窃盗や不審者通報などへの対応が多い。
北部は大学や私立高校など学校が点在し、巡回を多くしている。

そして今到着した南部は、中心部のターミナル以外では最も大きな駅があり、周辺には中心部の繁華街ほどではないといえそれなりの規模の商業区域が広がっている。
平日日中おける活動が最も多い場所だ。

車を路肩に停車して、ここからは徒歩でのパトロールを行う。
二人で歩き出すと、この時間でも人通りが多い駅前だけあり、すぐに人々の視線が集中した。


「あっ、パスカルだ!朝から見れてラッキー!」

「隣にいるの、体育祭で優勝したイケメンじゃない?」

「二人並んでるの眼福すぎ…」


そんな声が聞こえてくるが、燈矢はまるっと無視している。
応利は声をかけられれば手を挙げて応じて、目が合えば笑みを返すなどしていたが、燈矢はまったく気にしたそぶりを見せなかった。ファンサゼロの塩対応だ。

そのあたりは個人のスタンスのため何も言わない。それに、この不良のようなルックスであっても、きちんと周囲に目を光らせ、パトロールという仕事に集中していた。

すると次の瞬間、燈矢は突然足から炎を噴き出して空中に飛び出ると、目にもとまらぬ速さで、こちらを見ながら自転車を漕いでいた男のところへ向かった。
その先には杖をついて歩く老人がおり、ぶつかりそうになっていた。

突然目の前に着地した燈矢に男は驚くのと同時に、老人にぶつかりそうになっていたことに気づき目を丸くする。
いきなり派手に動いたことで、周囲の人々の驚いた声が満ちていた。

応利も応力の反発で地面を蹴って燈矢のところに瞬時に向かう。


「おい、どこ見て走ってンだてめェ…」

「ヒィッ!すみません!」


誰もが竦みあがるような眼光で睨みつけられ、男は情けない声を上げる。可哀想に、そもそも応利たちがいなければ前を見続けていたはずだ。


「こらトーヤ、睨むな。危なかったですね、油断は禁物ですよ」


燈矢をたしなめつつ、男にそう優しく声をかければ、男は何度も頭を下げてから去っていった。近くで見ていた女子高生は「こわ、ウケる」と言いながら通り過ぎていく。

すでにもとに戻っている燈矢だったが、とっつきにくく周囲をいたずらに怖がらせてしまっているものの、やはり真面目にヒーロー活動をしている。それに、こういう怖さを持つヒーローも治安維持には必要だ。

だが親子でそういう感じはどうなんだ、と思わないでもなかった。


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