深まる関係−2
燈矢が正式にSKとなってから1カ月、応利は横浜市内での人質事件の応援を要請された。
HNで緊急の呼び出しがあり、炎司が単独派遣を指示、新幹線に飛び乗って新横浜を降りてから、現場となっているみなとみらい地区へと向かった。出発したときには日が暮れており、横浜市内に到着したときには夜になっていた。
現場に到着すると、オフィスビル1階にある郵便局が敵グループによって占拠されていた。スタッフたちがまだ人質となっている。客は警察と地元ヒーローの努力によって解放されているようだ。
規制線をくぐり、煌々と照明に照らされる中、現場指揮を執っている警察と地元ヒーローのところへ走る。
「パスカル現着しました!」
「あぁ、良かった!お待ちしてました、パスカルさん」
警察があからさまにホッとしたようにする。地元ヒーローも安堵を浮かべていた。まだ事件を解決していないのにこういう反応をされると微妙にやりづらい。
「状況は?」
「ヴィランの数は5名、逃走用に警察車両を提供するよう要求しているほか、逮捕された仲間の解放も求めています」
「大きな組織ですか?」
「いえ、ただの強盗団です。警察で把握している人員は、逮捕された2名とこの現場にいる5名のみです」
大きな事件ではなさそうだ。大通りに面している郵便局であることもあり、多くの野次馬が集まっていた。規制線ギリギリまで来ており、「パスカルだ!」という声もちらほら聞こえてくる。
「局内はどうなってます?」
「解放された人質の証言によると、手前の待合スペースに犯人3名と局員全員、奥の執務スペースに犯人2名だったそうです。局員の数は8名です」
応利の質問に警察が答え、さらにヒーローも追加する。
「相手の個性は基本的に異形型でパワー系です。1名のみ、人型で銃弾並みの水鉄砲を出します。全員、銃火器で武装しています」
「分かりました。ネットで俺がいることがじきに分かってしまうので、もう行動します。人質は床か椅子に座らせられていますか」
野次馬がSNSに上げた情報から、すぐにでも敵側に応利の到着が伝わってしまう。すぐ個性を発動させる必要がある。室内の詳細を確認すると、警察が頷く。
「そのはずです」
「異形型の中に、人の腰丈以下のサイズの者は?」
「いません」
「では行きます」
必要な情報が揃ったため、応利は郵便局内に意識を向ける。空気がつながっている箇所を特定し、そこをめがけて一気に個性を発動した。
「
局所低気圧350hPa」
そう呟いて慣れた個性を発動、それによって、室内上部の空気のみを一気に低圧にした。
そしてすぐに地面の応力を引き上げてその場を飛び出すと、郵便局の入り口に一瞬で到着し、シャッターをせん断応力で破壊、ガラスをたたき割って中に突入する。
薄暗い室内には、待合スペースの椅子に人質が座らされ、犯人が倒れている。だが、どうやら姿勢を偶然にも低くして気圧の低下を免れていた犯人が1人だけいたようで、仲間を確認していたが、突入してきた応利に驚愕の色を浮かべる。
「な…ッ、なんでパスカルが…!」
「遅い」
トラのような見た目の男は咄嗟に銃を構えるが、すでにそのときには個性が発動しており、男は意識を失った。
室内に目を光らせ、全員が倒れていることを確認する。
「制圧完了。お待たせしました、外へ出ましょう」
人質に笑って言えば、局員たちは一斉に安堵を浮かべ、女性は涙を流す。
しきりに礼を言う局員たちの手を拘束するロープをせん断応力で断ち切っていき、人質を引き連れて郵便局を出る。局員たちは建物を照らす照明に目を細めた。
途端に、事件解決を理解したメディアや野次馬、警察までもが歓声を上げた。
すぐに警察がこちらに駆け寄り、局員たちを保護する。応利は同じく駆け寄ってきた地元ヒーローとともに再び局内に戻り、犯人たちを拘束、こちらも警察に引き渡す。
業務を終え、軽く野次馬やメディア対応をしてから、応利はとんぼ返りで新横浜駅に向かい、新幹線で静岡へと帰路についた。
広々としたグリーン車のトイレで私服に着替えるまでは、コスチュームで目立ってしまい、人質事件解決を報道で知った人々に駅構内でもホームでも囲まれてしまったが、ようやく一息つける。
モバイルオーダーでコーヒーだけ頼んでから、応利はそのままスマホで不在中のチャットを確認する。
大きな事件はなかったようだが、広報担当の事務員からチャットが入っていた。
『出張中失礼します。トーヤがメディアで粗暴な態度を取ってしまい、SNSで軽く炎上してしまっています。メディア対応についてもご指導いただけませんか』
何をしたんだあいつは、と思ったところにコーヒーが届く。席で決済をしてから、熱いコーヒーが冷めるのを待ちながらニュースを確認する。
トップには応利が解決した人質事件、オールマイトが東北5県62か所で事件や事故を解決したニュースが表示されている。そこからさらに掘っていくと、「エンデヴァーの息子でSK、トーヤはクールか不良か」という見出しが目に留まる。
内容を確認すると、炎系のSKとエンデヴァーとともにヴィランとの戦闘があったようで、凄まじい火力によって多くのヴィランを無力化したと評価されている一方、インタビューで父エンデヴァーとの共闘について質問されたところ、「あ?知らねーよ関係ねェ質問すンなよな」と回答。炎司にその場で注意されるも中指を立てて無言で去ったとのことだ。
記事では、「雄英体育祭3年連続優勝にしてエンデヴァーの息子という華々しい経歴、目を引く整った顔立ちに強烈な蒼炎の個性を持つヒーローながら、決してフレンドリーな性格ではないようだ。父親との関係も多くの推測を呼んでいる」と結んでいた。
これでもまだ優しい書き方だ。
ネットでこの記事へのコメントを確認してみると、強い個性やイケメンさ、媚びない姿勢に対する肯定的な意見も非常に多い反面、態度の悪さを批判する層や、もともとのエンデヴァーアンチにも火がついてプチ炎上のようになっている側面もあった。
こうなることは分かっていたが、実際目にすると頭を抱えたくなる。ため息をつきたくなったが、コーヒーで流し込んだ。