深まる関係−3
燈矢が軽く炎上してから3週間、大きな事件もなくSNSも沈静化しつつあったが、6月に入ったところで再び事件が発生した。
応利と燈矢はこの日も午前にパトロール、午後に待機からの帰宅ラッシュのパトロールを予定していた。
昼食をとって午後、事務所で待機していると、緊急の無線が入る。事務所内では、無線は館内放送として響き渡る。
『東部高級住宅街より、空き巣の窃盗団が車で逃走中!手の平から衝撃波を発生させる個性の犯人が車の速度を上昇させており、凄まじい勢いで市内中心部へ向かっています!至急、道路封鎖を!』
「こちらパスカル了解、交通規制に入ります」
コスチュームの備品の手入れをしていた燈矢はすでに準備を終えている。応利も無線を返してからすぐ警察に連絡を取り、東部から中心部にかけての道路をすべて赤信号に変えさせた。
警察もこれより該当する車両を衛星でマーカーし、道路を流して問題ないところから信号を順次復旧させていくことになる。
応利と燈矢はすぐさまエレベーターで地上階に降り、道路に出て走り出す。すでに道路は赤信号によって車で埋め尽くされており、警察官が道路を回って緊急封鎖を知らせる案内をしている。
その合間を東へ向かうと、猛烈なスピードでこちらにやってくる車が見えていた。
「トーヤ、迎撃に加われ」
「了解」
燈矢はすぐに足から炎を噴射して暴走車両へと向かっていく。一方、応利は付近の車に向けて、事務所から持ち出していた拡声器で声をかける。
「ヴィランの車両が接近しています!なるべく路肩に寄せて、可能であれば車を出て退避してください!」
警察も応利に続いて車の誘導に取り掛かり、渋滞する車は次々と路肩や歩道に乗り上げて退避する。歩行者や車を降りたドライバーたちは、不安そうにこちらに迫る車を見つめていた。
そこに、頭上を猛烈な勢いで炎が通り過ぎた。炎司だ。
それを追いかけるように、炎系個性のSKたちも道路を走り抜けていく。
周囲の幹線道路が開けたところで、応利も接近する車へと向かう。衝撃波を放つ個性のヴィランが気になった。被害が出るかもしれない。
応力を引き上げて跳躍しながら進むと、早速、前方から燈矢に向かって衝撃波が放たれた。燈矢は簡単にそれを避ける。衝撃波が直撃した街灯が甲高い金属音を立てながら破断して倒れる。
そして青い炎が噴き上がる。白い車や横断歩道の白線、ビル群の窓が青く反射し、さらにそこへ炎司の赤い火炎が混ざる。
すると、衝撃波の個性の者がヒーローたちに向けて衝撃波を放った。青と赤の炎を両方巻き込んで火炎放射器のようになるが、応利が個性を発動する。
ここから炎まで数百メートル離れているが、距離は関係なかった。空気がつながっていれば応利の個性は及ぶ。これくらいの距離ならないに等しい。
圧縮された空気によって炎は拡散せず、さらに真空状態になったことで燃焼も終了、衝撃波という圧力の急激な変化も応利のコントロール下に入って急減衰して消失した。
炎が消えたときには、炎司、燈矢、バーニンらSKたちによって車は停止させられ、全員が拘束されていた。さすがの手際だ。
歩行者やドライバーたち、周囲の高層ビルにいた人々などが一斉に歓声を上げる。
炎司は先ほど飛んでいたときに応利を見つけていたのか、こちらを振り返り手を挙げた。警察への連絡の合図だ。
応利はすぐに、近くにいた警察官に声をかける。
「事態は収束しました。これより順次、信号統制を解除してください。それまでは退避した車両の車線への誘導をお願いします」
「はい!」
警官が無線で連絡を取っているため、影響がなかった通りから信号が復旧する。また、この辺りも道路状況が復帰次第、元に戻るだろう。
応利も車の道路への復帰をドライバーたちに指示し、たまに車線復帰に失敗した車列を誘導してやりつつ、警察への引き渡しをする炎司たちのところへ向かう。引き渡し後の事後処理は応利が行い、炎司たちにはパトロールに戻ってもらうためである。
「エンデヴァーさん、あとは引き継ぎます」
「任せた」
犯人たちを拘束して移送車両に乗せていく警官たちのところにいた炎司にそう声をかけ、警官とともに、破損した車と盗難品の押収を監視する作業につく。
すると、応利に合流しようとしていた燈矢のところにメディアが突撃した。カメラとともに、マイクを持った女性リポーターが駆け寄る。
「ヒーロー・トーヤ、お話よろしいでしょうか?父親のエンデヴァーとの不仲説は本当なのでしょうか!」
そして何を聞くかと思えばそんなことで、応利はつい仲裁しに行きたくなったが、ちょうどそこに現場責任者の警官がやってきて、対応内容の確認とサインをしなければならない。これが終わらないと現場から警官たちも撤収できないため、応利はタブレットに表示された内容を急いで確認しつつ、燈矢の声に耳を澄ます。
「ア?あいつが理想的な父親に見えてンのかよ」
「ということは不仲ということですね?」
「つか邪魔だどけ」
しかし燈矢はすげなくあしらい、リポーターたちを押しのけてこちらにやってくる。
そんな燈矢に、早速ファンがついているのか、規制線の向こうから女性たちの色めく歓声が聞こえてくる。燈矢を口々に呼んでいるが、ことごとく無視していた。
それを見て炎司は髭から出る炎を強めて燈矢の方に向かおうとしたが、さすがに応利は慌ててそれを止める。
「エンデヴァーさん!カメラの前で言い争うのはまずいです、ここは任せてパトロールに戻ってください!俺がいるときは俺がその場でしばきますんで」
「…っ、お前からも言っておけ」
さすがにレピュテーションリスクだと判断したのか、炎司は鼻息を荒くしつつも炎を出して飛び立っていった。SKたちもそれに続く。
そこに燈矢が応利のところに合流した。
「いちいち騒ぐことかよ」
「お・ま・え・が・言・う・な!」
1音1音に合わせてドスドスと脇腹をつつく。燈矢は呻きつつ甘んじでそれを受けていた。まったく悪びれるどころか反省の色もない。そんな二人のやり取りに再び女性からの歓声が上がり、ため息をついてしまう。見世物ではない。
そんな応利を見て、警官たちは同情の目を向けていた。