深まる関係−4


その日、家に帰ると、食事中に早速ニュースやSNSを見ていたらしい冬美と夏雄が切り出した。


「ねぇ燈矢兄、あぁいう態度してるともっとすごい炎上しちゃうよ」


冬美は心配してそう言ったが、燈矢は「へーへー」と聞く耳を持たない。それを見て夏雄は呆れたようにする。


「燈矢兄、言っておくけどSNSじゃ『炎上ヒーロー』とか言われてるからな」


声変わりして少し声が低くなり、背丈も体格も大きくなった夏雄は、体の成長に伴い中身もしっかり成長しており、意外と子供っぽいところが残ったままの燈矢に呆れているのだろう。
だが燈矢も燈矢でそういうことを一切気にしていない。


「別に世間様がどう思おうがどうでもいい。つか、評判下がるのエンデヴァーだしな」

「そうかもしれないけど…応利君はどう思うの?」


冬美は炎司の評判が下がることに関心はないのか、もう今更なのか、それは脇に置いて応利にも意見を求める。応利は箸を持ったまま肩をすくめる。


「こればかりは燈矢のスタンスだからなぁ。燈矢がそれでいいならいい。ただ、あんまメディアに喧嘩売るとメディアも復讐してくるから、そこは気をつけろよ」

「え、復讐?」


思いもしなかったのか、冬美も夏雄も驚く。燈矢は依然として気にした様子ではない。


「そ。わざと悪く書いたり、燈矢が悪いわけじゃないのにそう読者が直感的に印象付けられるような言葉を選んだり、なんならわざと炎上するような、例えば不倫とか熱愛とかの報道に乗っかったり、とかな。意外とそういうことするんだよ、あいつら」

「うわ…芸能界の闇みたいな話だね」

「ヒーローなのにな」


冬美と夏雄のリアクションはもっともだ。だが人気商売なところがあるため、半分芸能界のようなルールや暗黙の了解があるのも確かだった。
とはいえ、炎司本人がそういうことを気にせずにここまでやってきたため、燈矢のことをどうこう言える立場ではないのだが。



翌日も、応利は燈矢とともにパトロールに出た。今日は市内中心部の繁華街で徒歩によるパトロールがメインとなる。
平日の日中とはいえやはり人が多く、よく声をかけられる。

応利には好意的なものばかりなのだが、燈矢に対しては、女性からの歓声があるほかは「生意気だぞー!」「態度悪いだろー!」とからかう声も多い。
それらすべてを丸ごと無視している燈矢の胆力はある意味で極めてタフだ。

しばらく歩き、たまにちょっとした人助けなども挟みつつ進んでいたときだった。
大通りに大型のバンが止まり、そこからカメラとリポーターがこちらに駆け寄ってくる。バンの扉に描かれているロゴは大手TV局のものだ。


「パスカル!トーヤ!今よろしいでしょうか!」


さすがプロ、息を切らさずこちらまでやってくると、女性リポーターはにっこりと綺麗な笑顔を浮かべる。カメラはじっとこちらを見定めるように無機質なレンズを向けており、その先にいる燈矢はげんなりとしている。


「パトロール中ですので、手短にお願いします」

「ありがとうございます!トーヤにお聞きしたいのですが、昨日の一件を受け、ネットでは父・エンデヴァーと非常に仲が悪いのでは、と推測が強まっています。実際のところどうなんでしょうか」

「チッ…しつけェな。いい加減にしろよ、お前らに話すことなんざねェよ」


燈矢は舌打ちをしてリポーターを睨みそう強く言うが、応利はその後頭部をひっぱたいた。いい音が周囲に響き、リポーターやカメラマンもビクリとする。


「あのな、媚び売らなくていいから喧嘩も売るな」

「……わーったよ」


燈矢はため息をついてそっぽを向く。だが、クルーに対する酷薄な視線や表情は一気に鳴りを潜め、にじみ出ていた怒気も霧散する。無事に鎮火したようだ。


「ええっと…」


困惑するリポーターに、応利が代わりに答える。


「不仲かどうかということでしたね。エンデヴァーさんもトーヤも、どちらも強い自分を持っているので衝突は多いですが、同じ炎熱の個性なので、互いに良い刺激になっていると思いますよ」


仲が良いとも悪いとも言っていない、まだら模様の回答だ。ヒーローインタビューの授業でもよく習ったものだ。どちらにも聞こえるそれっぽい回答で煙に巻く回答方法である。


「そ、そうですか。しかしトーヤは随分、言動が荒いとSNSでも指摘されているようですが」

「こいつずっとこうなんです。ただ、こいつから吹っ掛けることもありません。普通にしてれば至極普通のヒーローですよ」


重要なのは、燈矢からケンカを売ることはまずないということだ。そこはきちんと分かってもらわないと、いざという時に怯えられて助けられない、ということにもなりかねない。

クルーたちも、玄人の応利から決定的な発言を引き出すことはできないと悟ったのか、諦めモードになる。それを見て、応利は最後に一言添える。


「ご心配おかけして申し訳ないです。ちゃんと俺が監視しますんで」


そう言うと、おもむろに燈矢は応利の腰を抱きながら体を密着させてきた。そして、応利にくっつきつつニヤリと不敵に笑う。


「監視されまァす」


楽し気に、そして珍しくカメラの前で笑みを見せたこともあり、クルーはここが撮れ高だと瞬時に理解する。
一方、応利はカメラの前で燈矢がこんな接触をしてくるとは思わず、内心では驚愕に震えていた。表には一切出していないが、何をやっているんだこいつは、と睨みたくなる。


「体育祭での発言もそうでしたが、パスカルとは随分と仲が良いのですね」

「パスカルと一番仲良いのは俺」


ドヤ!という効果音が聞こえそうなほどのドヤ顔で言い切る。不特定多数の前でこんなに表情を動かすのは本当に珍しいことだ。
応利はため息をついて肘打ちをする。


「まぁ、とりあえずパトロール業務に戻らせていただきますね」

「はい、本日はありがとうございました!」


良いものが撮れた、とクルーたちはホクホク顔で撮影を終え車に戻っていく。
一方で燈矢は、応利の肘鉄を食らった脇腹を押さえつつ満足そうにしていた。

応利との関係について、SNSがざわついのは言うまでもない。


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