深まる関係−5
町中での燈矢の本格的な活躍が増え、メディアへの露出も出てきたため、燈矢の知名度も上がってきた。そもそも何度か炎上したこともあるが、同時に、燈矢の強さや立ち回りのセンス、体育祭の成績、何よりその美貌もあって、人気もアンチも先鋭化して数が増えているといったところだろう。
加えて、燈矢の態度の悪さについても世間が少しずつ理解してきており、炎司がいるときが最も態度が悪く、SKといるときや1人でいるときは普通で塩対応なだけ、そして応利といるときは機嫌が良くいろいろな表情が見られる(ただしファンには依然として塩対応)という評価がされている。概ね妥当だ。
ちなみに、応利はもともとSKでありながら活躍が極めて多く、雑誌やテレビの特集なども組まれており、ファッション誌の表紙になったこともあるなど、メディア露出は炎司よりも多いほどだ。
それもあって、「最も有名なSK」と言われることもある。
そんな状況が続いている中、7月1日、夏雄の14歳の誕生日となった。
去年、ケーキはいらないと言われていたが、燈矢、焦凍、冬美の誕生日が年末年始に集中していることから、夏の時期にケーキを合法的に食べられるのは夏雄の誕生日だけだ。
ちょうど休日で、応利は台所で昼食後の皿洗いをしており、子供たちは各自の皿を下げに来ている。
夏雄が来たところで、応利は振り返りながら尋ねた。
「なあ、本当にケーキいらねぇの?」
「え、うん…」
夏雄は困惑している。なぜ念を押されているのか、といったところか。隣に立ち、シンクの脇に燈矢が置いた皿に自分のものを重ねて置いていく。
すぐ横に立っているため横を見上げるが、やはり燈矢並みの身長になっており、視線が上に上がる。本当に大きくなった。
「でも燈矢の誕生日以来、ケーキ食ってないだろ?」
「俺は別にそこまでケーキに拘りとかないし…」
「でも誕生日っつったらケーキだろ、なぁ、だめ?」
手が塞がっているため、応利は小突く代わりに頭突きをする。バスケで鍛えられた肩にぐりぐりと頭を押し付けると、夏雄は挙動不審になる。
「えっ!?いや、えーと、嫌とかダメとかじゃねーし、応利君が食べたいならいいけど」
これで言質は取れた。もう夏雄も14歳、これくらいのノリで押し切っても問題ない。小さい子供に強制するわけにはいかないが、すでに夏雄はそういう括りではないだろう。
しかしそこに、燈矢の冷え冷えとした声がかけられた。
「おい浮気か応利」
「燈矢兄!?いやこれはそういうんじゃ、」
頭を上げて振り返ると、燈矢が大皿を持ってきてくれていた。何が浮気かと思ったが、確かに、応利は頭突きのつもりだったが盛大に甘えているようにも見えなくもない。
さすがに少し気恥ずかしくなったが、その方がなんだか後ろめたい感じになる。応利は気にせずに話題を続けることにした。
「燈矢は察して自分の誕生日にケーキを復活させてくれたからな」
「なんの話だよ…」
「夏雄の誕生日ケーキの話」
脈絡なく言われて燈矢は眉根を寄せたが、夏雄の誕生日のことだと理解し合点する。
そして、流しの中に大皿を置きつつ応利の腰を抱いた。
「そういうことな。そうだぞ夏君、俺はケーキに興味なかったのに、応利が食べたそうにしてっから、俺の誕生日にケーキ出していいことにしてあンだよ」
「てか誕生日に拘らなくても普通のときに食えばいいじゃん…?」
「誕生日は合法だろ。特別なときじゃないのにケーキ買うのは、なんつかこう、違法性がだな…」
「俺の知らない法律なんだけど」
当然、ただの自分ルールのようなものだ。厳密には、ド庶民の応利にとってケーキは特別なときのものであり、特別なときでもないのに食べるのは良くないことのような気がしてしまうのだ。
金持ちの二人には理解できない感覚のようだったが。
「ハレとケってやつだよ。ま、とりあえず今日の夜はケーキ買ってくるから。メロンのやつかな、柑橘系もありだな」
「今日もかわいいな」
どういうものにしようか、と考えている応利を見て何やら燈矢が抜かすため、軽く足を蹴っておく。
夏雄はそれに呆れながらも、シンクの脇に置いてあった皿を流しの中に移した。
それにしても、こうして夏雄と燈矢に挟まれていると、身長や体格に炎司の血筋を感じる。
「にしても、夏雄ほんとでかくなったな。こうして見ると、マジで燈矢と同じくらいじゃん。すぐにこの家でエンデヴァーさんとの次にでかくなるなぁ」
「あいつに似てるの嫌なんだけど…」
ただ感慨深く思って言っただけだったが、夏雄は本気で嫌そうにしていた。父親に似てくるのが本当に嫌らしい。そういうつもりはなかったため、応利は訂正しておく。
「エンデヴァーさんのこと関係なく、夏雄は格好良くなったし、もっと格好良くなるよ」
「っ、」
内面の柔らかさというのは表情や雰囲気にも出るもので、炎司の面影こそあっても、そこにはやはり、生来の優しさや温厚さが滲んでいた。
そんな応利の言葉に夏雄は息を飲んでから、顔を少し赤らめる。
それを見て、いまだに応利を抱き締めたままの燈矢が眼光を鋭くした。
「おい夏君、いくらお前でも許さねェからな」
「そういうんじゃねーし。燈矢兄こと、愛想尽かされないようにね」
大人げなく圧をかけた燈矢にため息をついて、夏雄は軽く手をペーパータオルで拭いてから去っていった。
今の言葉は確実に、夏雄が二人の関係を察していることを示唆していた。
「…え、あれ、気づいてるか?」
「あいつはよく周り見てるし、そうじゃねェの。ま、これで遠慮なくどこでもくっつけるな」
夏雄にバレていることを気にせず、むしろ好都合とばかりに応利を深く抱きしめてきたため、応利もため息をつく。
もともとメディアの前ですら思わせぶりなことをしてきたのだ、今更何を言っているのだろうか。